研究課題
日和見感染症患者における肺炎には、感染初期において咽頭の常在菌としても存在する黄色ブドウ球菌の感染が認められるが、在院日数の長期化に伴って緑膿菌感染へと移行していく。このような現象は臨床においては比較的古くから知られているが、菌交代の分子メカニズムについては、ほとんど明らかにされていない。本研究では、黄色ブドウ球菌感染状態から経時的に緑膿菌感染状態へと菌交代が起こる現象の分子レベルでの解明を目的とする。この課題において、緑膿菌の攻撃に対する黄色ブドウ球菌の防御因子の探索、及び緑膿菌に対する黄色ブドウ球菌の攻撃因子の探索の二面に関して研究を進めている。その際、トランスポゾンによる変異株ライブラリを作成し、これを利用してそれぞれの因子に関連した遺伝子の変異株を得ることで、解析を行う。この実験方法を進める上で、黄色ブドウ球菌トランスポゾン変異株ライブラリを作成する際に使用する親株の選択が重要である。効率的にスクリーニングを行うため、緑膿菌に対して強い阻止帯を形成し(緑膿菌に対する攻撃力が強く)、全塩基配列が明らかになっている当教室が保有する黄色ブドウ球菌 臨床分離株TY825株を用いてライブラリの作成を行った。しかし、ライブラリの変異が一部の株で正常に行われていないことが判明し、現在はライブラリの再構築を行っている。
3: やや遅れている
研究期間内に、以下に示す二つの研究計画について実施することを目標とした。それぞれの項目について、分けて述べることにする。① 緑膿菌の攻撃に対する、黄色ブドウ球菌の防御因子の探索緑膿菌の培養上清を含んだ培地に播種すると、増殖が著しく阻害される黄色ブドウ球菌と、あまり影響を受けない黄色ブドウ球菌が存在する。この現象の探索のため、トランスポゾン変異株ライブラリを用いて、この現象に関与する遺伝子の探索を行ってきた。実験開始当初、このスクリーニングがほぼ終了していると記載していたものの、解析の途中において一部のライブラリでトランスポゾンが正常に伝播していないことが明らかになった。そこで、ライブラリの再構築を行い、現在もライブラリの確認及びスクリーニング作業を行っている。② 緑膿菌に対する、黄色ブドウ球菌の攻撃因子の探索緑膿菌を重層した培地に播種すると、緑膿菌の発育阻止帯を形成する黄色ブドウ球菌と形成しない株に分かれる。これについてもトランスポゾン変異株にて探索する計画であったが、上記と同様の理由により、当初の予定よりもスクリーニングがやや遅れている状況である。
市中感染型黄色ブドウ球菌TY825株のトランスポゾンランダム変異株ライブラリの再構築を行っている。ライブラリが完成した後、緑膿菌抵抗因子の探索を行う。ランダム変異株約5,000株から、緑膿菌に対する抵抗性が減弱した株を選出し、これらの株がどの遺伝子が破壊されているかを解析した後、これらの変異株を作成していく。変異株を作成する順序は、阻止帯の減弱が大きいものから順番に作成していくものとする。遺伝子の機能を、blast、KEGGなどの検索にて推定したり、タンパクを精製し、機能を調べる作業を並列して行っていく。
トランスポゾンライブラリ作成の遅延により、変異株を作成するためのPCR用酵素の購入や、タンパク発現のためのキットの購入が遅れたため。
ライブラリの再構築が完成し、スクリーニングが完了した時点で当初に予定していた実験計画が進むため、計画通りのキット類を購入する予定である。
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Microbiology and Immunology
巻: 60 ページ: 148-159
doi: 10.1111/1348-0421.12359
Antimicrobial Agents and Chemotherapy
巻: 59 ページ: 2678-2687
doi:10.1128/AAC.04207-14