EHECが産生する志賀毒素(Stx)には1型と2型が存在し、これらは互いに血清学的交叉反応性を示さないことから、これら2種類の毒素を同時に中和できるトキソイドワクチンが必要とされている。Stx1とStx2のB鎖5量体(Stx1BおよびStx2B)を大腸菌で組換えタンパク質として発現させ、マウスを用いた毒素攻撃試験でそのワクチン機能について検証したところ、Stx1Bは高い防御効果を示したが、Stx2Bは防御機能を全く示さなかった。 このStx1BとStx2Bのワクチン効果の顕著な違いを究明するため、グルタルアルデヒドを用い、B鎖5量体分子内におけるB鎖分子間の会合力(結合力)を解析したところ、Stx2Bの5量体は、Stx1Bの5量体と比較し、不安定であった。このStx2Bの5量体安定性の低さが抗毒素ワクチン効果の低さの直接的原因であると結論付けた。 そこで、過去にコレラ毒素B鎖(CTB)をモデル抗原として確立したエンテロトキシンB鎖安定化法(“Five-to-five technology”)をStx2Bの5量体安定化のため応用した。すなわち、CTBやStxBと同じく5量体を形成するコイルドコイル分子(cartilage oligomeric matrix protein: COMP)をStx2Bの結束分子として利用し、COMPとStx2Bの融合分子(Stx2B-COMP)を構築した。この融合分子は、Stx2B単体と比較し、顕著に高いワクチン効果を示した。 また、Stx1及びStx2を中和可能なB鎖標的型ヒト化もモノクロナル抗体を開発し、将来的に抗体医薬品として医療現場での応用を目指すため、ワクチン効果を示したStx1B及びStx2B-COMPを免疫源として作出を試みた。その結果、Stx1及びStx2を中和するモノクロナル抗体を得ることができた。
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