研究課題
百日咳菌の臨床分離株には、自己凝集を示す菌株が存在することが古くから知られていたが、その明確な要因については明らかにされていなかった。本研究ではまず、強い自己凝集能を示す百日咳菌株を親株として、自己凝集能を欠失した自然変異株を得た。次に次世代シーケンサーを用いて両株の全ゲノム配列を比較解析したところ、type 3 fimbriae (fim3)およびrpoA遺伝子のプロモーター領域にそれぞれ1塩基変異が見出された。mRNA発現解析ではrpoA遺伝子上流の変異は遺伝子発現に影響を与えなかったが、fim3遺伝子上流の変異により、fim3遺伝子の発現が有意に低下した。また、イムノブロット解析により、自己凝集欠失株ではFim3産生が欠損していることが判明した。一方、近年の百日咳菌国内臨床分離株は9割以上がFim3産生株であるが、この中でも自己凝集株/非自己凝集株が存在する。臨床分離株についても抗Fim3抗体を用いたイムノブロット解析を行ったところ、自己凝集株では非自己凝集株よりもFim3の産生量が有意に高いことが判明した。また、百日咳菌の生育培地によりFim3産生量が異なることも明らかとなった。百日咳菌は通常、馬血液加Bordet-Gengou (BG)培地もしくは人工合成培地CSM培地により培養されるが、Fim3はCSM培養時の方が産生量が高く、自己凝集能を有する株でもBG培養した場合は5時間以内の自己凝集を示さなかった。これらのことから、百日咳菌の自己凝集は一定レベル以上のFim3産生が引き起こしていることが示唆された。次に、強い自己凝集能を有する臨床分離百日咳菌BP300株を元に、fim3遺伝子破壊およびfim3 and/or fim2遺伝子の相補実験を行った。この結果、やはりfim3遺伝子破壊により自己凝集能は失われ、fim3遺伝子の相補により自己凝集能の回復が認められた。
1: 当初の計画以上に進展している
次世代シーケンサーの利用により、自己凝集株および自己凝集消失変異株の全ゲノムを比較解析したことで、自己凝集を引き起こす遺伝的な要因について網羅的な解析が可能となった。その結果、type 3 fimbriae (Fim3)の産生が自己凝集の要因であることが特定された。またimmunoblotによるFim3産生量の推定から、自己凝集にはある一定レベル以上のFim3産生量が必要であることが明らかとなった。さらに、この知見が臨床分離百日咳菌に一般的に当てはまる条件であることが判明した。初年度は遺伝子レベルでの解析までを計画していたため、現在は当初の予定よりも進展している。
百日咳菌の自己凝集が、病原性に与える影響について検討する。マウス鼻腔感染実験を実施し、自己凝集株のマウス肺内への定着率、菌クリアランス速度を非自己凝集株と比較する。また、現行百日せきワクチン接種の影響も検討したい。動物実験を行うにあたり、自己凝集株では感染菌数の把握がCFU測定では困難であることが予測されるため、リアルタイムPCRを用いた測定系を構築する。
年度末納品等にかかる支払いが平成28年4月1日以降となったため、当該支出分については次年度の実支出学に計上予定。平成27年度分についてはほぼ使用済みである。
上記の通り。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件) 図書 (1件)
Microbiol Immunol.
巻: 60 ページ: 326-333
10.1111/1348-0421.12378.