本研究の目的は、EBV陽性胃上皮細胞の腫瘍化におけるAPOBECの役割を明らかにすることである。前年度において、EBVの感染によってAPOBECの発現亢進とミトコンドリアDNAへのC-to-T変異の導入が認められたことを報告した。本年度は、以下のことを明らかにした。 1.EBV感染させるとミトコンドリアマトリックスに局在するタンパク質HSP60の発現が大きく低下した。 2.EBV感染で誘導されるAPOBECにおいて、APOBEC3(A3)ファミリー(A3A、A3B、A3C、A3D、A3F、A3G、A3H)を過剰発現させた後、3D-PCR法によりC-to-T変異を解析したところ、A3A、A3C、A3G発現時にミトコンドリアDNAへの変異導入が認められ、特にA3Cによる変異導入が高頻度であった。 3.EBV感染時、A3Cの過剰発現時において、ミトコンドリアDNAのコピー数とATP産生の低下、及びミトコンドリア由来活性酸素(ROS)の産生量が亢進した。 4.APOBEC3Cをノックアウトした胃上皮細胞株ではアポトーシスが低下した。 以上より、EBV感染により発現亢進されたAPOBEC3ファミリーの一部はミトコンドリアDNAに変異を導入し、特にA3CはミトコンドリアDNAへ変異導入を介してミトコンドリア機能(ATP産生、アポトーシス)に作用する可能性が考えられた。また本研究において、当初の目的である宿主DNAへのC-to-T変異は3D-PCRによる検出と蛍光タンパクによるモニタリングいずれの方法でも検出されなかった。宿主ゲノムでは、遺伝子修復機能が高いので、遺伝子修復酵素を阻害する系との組み合わせや広範なゲノム中のAPOBECがターゲットとする領域の検索が必要と考えられた。
|