日本脳炎ウイルス(JEV)のゲノムRNA両端には4組の相補配列(CS)が存在する。JEVと同属であるデングウイルスやウエストナイルウイルスでも同様にCSが確認されており、それらのウイルスではCSを介してゲノムRNAが環状化し、そのゲノム環状化がウイルス複製に必須であることがすでに報告されている。本研究では、これまでにJEVの複製過程におけるCSの機能について解析するため、ルシフェラーゼ発現JEVレプリコンを作製し、そのCS領域に種々の変異(相補性を喪失する変異・相補性を維持する変異)を導入し解析を行った。4組のCSすべてについて、哺乳類細胞および蚊細胞内のJEVゲノム複製に寄与していることが明らかになり、またその機序として相補性依存型と配列依存型の2種があることが判明している。これらはゲノムRNA上の二次構造の機能を明らかにする上で重要な知見である。 そこで、上で観察されたようなCSのウイルス複製に及ぼす影響が実際にゲノム環状化の成否によるものかどうかを明らかにするために、ゲルシフトアッセイ法を用いてRNA-RNAインタラクションの有無を変異を導入したゲノム5’端および3’端を合成して解析を行った。また、本解析は哺乳類細胞とJEV媒介動物である蚊由来細胞の体温である37℃と28℃で実施した。その結果、温度による差は認められなかったが、RNA-RNAインタラクション(ゲノム環状化)に対する影響の大きさはCSによる差が認められた。即ち、環状化貢献度の高いCS領域の相補性が維持されていれば、他のCS領域の相補性が喪失していてもゲノム環状化が起こることが示された。 従って、本研究により、CS領域は哺乳類細胞と蚊細胞内でのウイルス複製に関与するが、ゲノム全体の環状化を介するものとステムループなど限局的な二次構造を介するものがあることが明らかになった。
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