HBV持続感染患者においてHBs抗原はHBV特異的免疫応答の抑制に関わっていると考えられている。また、HBVの成人感染において、遺伝子型(Gt)AウイルスはGt-Cウイルスよりも持続感染化率が高いことが知られている。しかし、HBs抗原の発現制御機序の詳細は未だ不明な点が多い。これまで、複数のGt-Aウイルス感染においてGt-CよりもHBs抗原が多く発現をしていることを示してきた。そして、ウイルスDNA、cccDNAおよびRNAの高感度定量PCR法を構築してきた。平成29年度においては、HBs抗原の翻訳に用いられる2.1と2.4kb mRNAの転写を制御するS1またはS2プロモーター領域の直下にルシフェラーゼ遺伝子を連結させたプラスミドをそれぞれ構築し、導入細胞における転写活性を解析した。その結果、Gt-AとGt-CのS1プロモーターの転写活性は同程度であることが明らかになった。また、S2プロモーターにおいてもGt-Aの高い転写活性は観察されなかった。次に、1.24倍長のウイルスゲノムを有したプラスミドを構築し、導入細胞におけるウイルスmRNA量を比較した。その結果、Gt-AにおけるウイルスmRNAの高発現は観察されなかった。そこで、自己切断配列(P2A)を介してHBs抗原と分泌型ルシフェラーゼ蛋白質を連結させた融合蛋白質発現プラスミドを構築し、翻訳効率を検討した。その結果、Gt-Aの翻訳効率はGt-Cと同程度であることが示された。以上の結果から、Gt-Cよりも高いGt-AのHBs抗原の発現は翻訳後の過程において制御を受けていることが示唆された。
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