研究課題/領域番号 |
15K19123
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
奥山 祐子 東北大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (50624475)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | TCR補助刺激シグナル / OX40 / IQGAP1 / NFAT / 自己免疫疾患 |
研究実績の概要 |
T 細胞補助刺激分子OX40の細胞内シグナルは活性化T 細胞の増殖・生存を促進し、記憶T細胞の形成を促す。OX40シグナル伝達経路の詳細な制御機構を解明するため、OX40刺激依存的にOX40と相互作用する分子の検索を行った結果、機能不明のscaffold分子IQGAP1を見いだした。さらに、Iqgap1欠損マウスではEAE(多発性硬化症モデル)と炎症性腸疾患が増悪する。これらから、本研究はOX40-IQGAP1シグナルを介したT細胞活性化制御機構を解明することで、OX40補助刺激の新たなシグナル制御機序とT細胞依存性炎症疾患における役割を解明するものである。 これまでの知見から、Iqgap1欠損CD4+T細胞ではOX40シグナルを介する T細胞応答が過剰になり、T細胞免疫応答が亢進し、T細胞依存的組織炎症が増悪すると予想される。さらに、OX40-IQGAP1のT細胞活性化における作用機序として、IQGAP1がOX40L刺激により何らかの制御を受けて、NFATの脱リン酸化あるいは核移行、転写活性が促進される可能性が考えられる。これについてin vitroでの解析を進めている。 まず、T細胞株においてCRISPR-Cas9システムを用いてIQGAP1欠損T細胞株を作出した。この細胞株において、TCR刺激及びOX40L共刺激下でのNFAT脱リン酸化、およびIL-2産生の増強が認められた。また、OX40刺激依存的なOX40-IQGAP1相互作用について、TRAF2ノックダウンT細胞株を作製し解析し、OX40-IQGAP1相互作用はTRAF2を介した結合であることが示された。さらにHEK293T細胞を用いて、IQGAP1、TRAF2のそれぞれの機能ドメインの欠失変異体を発現させ、免疫沈降法により解析した結果、IQGAP1のC末端領域とTRAF2のRINGドメインを介して結合することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
IQGAP1がOX40シグナルを介したTCR補助シグナル制御に抑制的に寄与することを裏付けるいくつかの結果を得られた。OX40-IQGAP1相互作用の詳細も徐々に明らかになっている。これまでの研究から、OX40に会合するIQGAP1がT細胞の活性化に重要なNFATシグナルの制御を介し、EAEの病態を抑制するという仮説を立てている。IQGAP1は、リン酸化(不活性型)NFAT に対し高親和性を示し、この結合はNFAT の活性化に阻害的にはたらくことが示唆されている。このことから、OX40 とIQGAP1との結合がNFATの活性化に対し促進的にはたらく機序として、①NFATのIQGAP1からの解離が促進される、② NFATが脱リン酸化されやすくなる、という可能性が想定されいる。これについて検証を行うため、T細胞株を用い、TCR刺激による誘導と、TCR+OX40共刺激による顕著な増強が見られる実験条件の最適化を検討している。①に関しては、T細胞株において、NFATとIQGAP1の恒常的な結合が検出され、イオノマイシン処理によりNFATの脱リン酸化に伴うIQGAP1との結合の解離が確認されている。今後、OX40刺激前後におけるIQGAP1-NFAT相互作用と解離、およびNFAT分子のリン酸化レベルを評価し、制御機構を明らかにしていく。
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今後の研究の推進方策 |
マウス免疫病態におけるOX40-IQGAP1シグナル機構の重要性について、EAEを中心に解析を進める。T細胞内に発現するIQGAP1とマウスEAE病態との関連性を解明するため、亜放射線照射したマウスにCD4+T細胞を養子移入し、MOG/CFAを免疫し、ドナーT細胞依存的にEAEを発症させる実験系にて検証する。野生型および Iqgap1欠損マウスから精製したCD4+T細胞を養子移入し、T細胞に発現するIQGAP1がEAE を抑制するか検証する。IQGAP1の発現によりEAEを抑制する責任細胞を特定する。 さらに、EAEにおけるOX40-IQGAP1の意義については、OX40シグナルの亢進によりEAEが増悪するが、これにIQGAP1がどう関与するかが不明である。そこで、Ox40欠損マウスとIqgap1欠損マウスを交配させたマウスを作成し、EAEを誘導し、これらマウスの重症度を比較する。また、これらの交配マウスから精製したCD4+T細胞をドナー細胞として 養子移入実験を行い、CD4+T細胞に発現するOX40とIQGAP1のEAEにおける役割を明らかにする。OX40とIQGAP1の免疫疾患における生体内での機能と関係性を総合的に検証する。 OX40-IQGAP1によるTCR制御機構の分子レベルでの解析については、引き続きNFAT活性化制御の観点を中心として解析を進める。また、IQGAP1のC末端領域がTRAF2を介してOX40と相互作用することがわかったが、一方でIQGAP1のN末端領域はOX40-TRAF2とは結合しないがNFAT1と相互作用することも見出した。今後IQGAP1欠損T細胞株いおいてIQGAPのN末端もしくはC末端領域のみを発現させた細胞株を作出し、両者の機能の違いを明らかにすることで、OX40を介したTCRシグナル制御におけるIQGAP1の新規機能を解明する。
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