研究課題
CCR4-NOT複合体はmRNA分解の中心的反応であるポリ(A)分解を担う主要な酵素複合体であり、複合体の構成因子の一つCNOT3のB細胞特異的欠損マウスは著明なB細胞分化異常を呈する。この分化異常の分子メカニズムを明らかにするため、平成27年度は、まずRNA-seq法を用いてCNOT3欠損プロB細胞とコントロールプロB細胞のトランスクリプトームを解析した。発現変動遺伝子群の解析から、p53 mRNAはCNOT3欠損に伴いポリ(A)鎖およびmRNA半減期が伸長し、発現量が上昇していたいっぽう、p21, Pumaなど発現量が上昇していながらポリ(A)鎖やmRNA半減期に変化のない遺伝子群の存在も明らかになった。このことはCCR4-NOT複合体による分解標的mRNAの選択は特異的なものであることを示唆している。この特異性を担保しているp53 mRNAのシス領域やCCR4-NOT複合体とmRNAの結合を仲介しているトランス因子を明らかにするため、FLAGタグ化したp53 mRNAとプロB細胞抽出液を用いて生化学実験や質量分析を行ったところ、p53 mRNAに特異的に結合するタンパク質群の同定に成功した。いっぽう、CNOT3とp53の二重欠損マウスを解析したところ、CNOT3単独欠損で顕著に減少していたプレB細胞数は、二重欠損により部分的に回復したものの、未熟B細胞以降への分化は回復しないことが分かった。これは、p53欠損によって細胞死の増加は解除されたものの、免疫グロブリン重鎖遺伝子のV-DJ遺伝子再構成の異常が回復しなかったことが原因と考えられた。これらの結果はCNOT3がp53を介した細胞死の制御のほかに、免疫グロブリン重鎖遺伝子のV-DJ遺伝子再構成の制御にも重要な役割を果たしていることを示唆している。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度に予定していたプロB細胞におけるp53 mRNA結合タンパク質の探索について、いくつかの結合候補因子の同定に成功した。また、CNOT3がp53制御とは独立に免疫グロブリン遺伝子再構成に関与しているという発見は当初予期していなかった結果であり、今後も引き続きメカニズムの解明を進める。
当初の予定通り、p53結合候補因子の解析を進め、プロB細胞におけるCCR4-NOT複合体によるp53 mRNAの認識、制御メカニズムを明らかにしていく。また、CNOT3による免疫グロブリン遺伝子再構成の制御メカニズムについても明らかにするために、FISH法などを用いてCNOT3欠損プロB細胞の免疫グロブリン遺伝子座を解析するといった実験も研究計画に追加する予定である。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (1件)
Journal of Experimental Medicine
巻: 212 ページ: 1465-1479
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臨床免疫・アレルギー科
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