最終年度は前年度までに得られた実験データを精査し、理論モデルの構築に発展させた。ナイーブT細胞が特異的抗原が存在する抗原提示細胞と接触させても必ず活性化するわけではなかった。逆に特異的抗原が存在しない場合でも活性化を示す場合があった。さらに、抗原提示細胞に活性化T細胞や制御性T細胞が相互作用しているとT細胞の活性化頻度が調整されることを実験データとして示していた。 各々の場合におけるT細胞の活性化頻度をパラメータとして使用して、ナイーブT細胞と抗原提示細胞をランダムに配置して、活性化する回数を測定した。さらにパラメータとして、一旦活性化すると3時間は抗原提示細胞と結合すること、1時間は再活性化が抑えられることも組み込んだ。実験データでは1回の接触では特異的抗原の有無で大きな差は捉えられなかったが、シミュレーションの結果24時間後には大きな差になることが示された。 ただし、上記のセットでは3日以上経つと特異的抗原がなくても多くの細胞が活性化してしまうので、何らかのネガティブフィードバック機構があると考え、一定時間活性化しない場合は活性化のレベルが低下するパラメータを追加した。その結果、特異的抗原が存在しない場合は静止状態を保ち、存在する場合は時間が経つごとに活性化のレベルが上昇することを示すことができた。 以上の結果から、T細胞は抗原の有無に関わらず低頻度で活性化するが、ネガティブフィードバック機構により静止状態を安定化する。特異的抗原を接触してネガティブフィードバック機構を凌駕する強いシグナルが入ることで、活性化の状態に遷移していくことが示唆された。
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