研究実績の概要 |
胸腺上皮細胞は皮質および髄質上皮細胞に分類され共通の上皮前駆細胞から分化する。しかし、その分岐を担う分子メカニズムは明らかになっていない。本研究では、皮質上皮細胞特異的なbeta5tの転写制御メカニズムを明らかにすることにより、上皮細胞分岐を担う分子メカニズムの解明を目指した。 皮質上皮細胞と髄質上皮細胞での遺伝子発現を比較したマイクロアレイ解析結果から、皮質上皮細胞で発現が有意に高いGfi1, Ets1, 髄質上皮細胞での発現が有意に高いNkx2.6, Cdx1, Mxd1, Elf3によるbeta5t発現の制御をin vitroレポーターシステムで検討したが、これらの転写因子によるbeta5tの転写調節は確認されなかった。いっぽう、皮質、髄質両上皮細胞の分化に必要な転写因子Foxn1を発現すると、beta5tの発現が正に制御されることが明らかになった。beta5tゲノム上にはFoxn1の結合配列が存在しており、この配列に変異を導入したマウスでは、皮質上皮細胞でのbeta5t発現が低下した。beta5tはCD8陽性T細胞の正の選択を担う胸腺プロテアソームの構成鎖であるが、この変異マウスでは胸腺でのCD8陽性T細胞の生成が低下していた。これらのことから、皮質上皮細胞でのFoxn1によるbeta5tの発現制御が正常な免疫システムの維持に重要であることが明らかになった。おもしろいことに、髄質上皮細胞はFoxn1を発現しているのにも関わらずbeta5tは発現しないことから、Foxn1に加え、上皮細胞分岐を担う他の分子機構の存在が考えられる。現在、上皮前駆細胞および髄質上皮前駆細胞を対象としたRNA-seqやChIP-seqなどから、Foxn1以外の分子機構の解明に挑んでいる。
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