研究課題/領域番号 |
15K19136
|
研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
小田 朗永 東京理科大学, 研究推進機構生命医科学研究所, 助教 (80547703)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 脾臓 / Tlx1 / 造血ニッチ / 髄外造血 / 間葉系前駆細胞 / FDC / FRC / MRC |
研究実績の概要 |
脾臓は、老化赤血球の除去や鉄の再利用の場を担う赤脾髄、免疫応答の中心的な場である白脾髄、そして白脾髄へのリンパ球移入領域である辺縁帯から成る臓器である。これまで、赤脾髄、白脾髄、そして辺縁帯に定住する免疫細胞について多くの研究がなされてきた一方で、細胞の働く「場」については殆ど研究がなされていない。この微小環境を形成する「場」の正体は、間葉系細胞や血管内皮細胞などのストロー マ細胞であり、脾臓では濾胞樹状細胞、線維性細網細胞、辺縁帯細網細胞、赤脾髄繊維芽細胞に分類されており、近年その生理学的な重要性が明らかになっている。しかしながら、これらの間葉系ストローマ細胞がどの様に供給され、生涯を通じて維持されているかについては殆ど理解されていない。我々は、脾臓形成マスター制御因子であるTlx1を発現する細胞集団に焦点を当て、脾臓微小環境を分子レベルで理解する事を目的とし、研究実施系計画に基づき研究を行った。当該年度に実施した研究の成果は、Tlx1 発現細胞はPDGFRα/β, LtβR などの間葉系幹細胞マーカーを発現し、脾臓限定的に存在している細胞集団である事を証明した。さらに、Tlx1 発現細胞は、濾胞樹状細胞、線維性細網細胞、辺縁帯細網細胞、そして赤脾髄繊維芽細胞などの全ての脾臓成熟ストローマ細胞への分化能を有していた。つまりTlx1 発現細胞は成熟間葉系ストローマ細胞の前駆細胞として、生涯を通じて維持されている細胞集団であることを明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度の研究実施系計画は、脾臓原基形成に必須の転写因子であるTlx1を発現する細胞(Tlx1発現細胞)の性状や局在を明らかにし、さらに成体脾臓におけるTlx1発現細胞の役割について明らかにすることであった。そして、Tlx1発現細胞は濾胞樹状細胞、線維性細網細胞、辺縁帯細網細胞、そして赤脾髄繊維芽細胞への分化能を維持したまま生涯脾臓で維持されている間葉系前駆細胞であることを明らかにした。一方、当初は予期していなかった結果として、Tlx1発現細胞は造血制御因子であるCXCL12、SCFなどを高発現していた。そこで、Tlx1発現細胞と脾臓造血幹前駆細胞との関係を調べるために、Tlx1creER;Rosa26-DTA (DTA)マウスを用いてTlx1発現細胞を除去後の脾臓への影響を調べた。すると、脾臓に存在する造血幹前駆細胞の実数が有意に減少した。さらに、LPSやフェニルヒドラジン投与による脾臓髄外造血の誘導により、Tlx1発現細胞におけるTlx1の発現が上昇するという現象を見出した。そこで、Tlx1の発現上昇にどの様な意味があるのかを調べる為に、Tlx1発現細胞で選択的にTlx1を過剰発現誘導可能なTlx1CreER; Rosa26-CAG-Tlx1 (Tlx1 tg)マウスを作製し解析を行った所、Tlx1 tgマウス脾臓で、自然発症的に脾腫を伴う髄外造血が誘導された。従ってTlx1発現細胞は、脾臓の形成や維持に関わる間葉系前駆細胞としての機能だけではなく、これまで全く明らかとされていない脾臓造血ニッチである可能性が浮上している。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策は、平成27年度に得られた知見を踏まえ、平成28年度研究実施系計画に基づき研究を遂行していく。特に、Tlx1発現細胞からの脾臓再構築への挑戦に重点をおき研究を遂行していく。具体的には、脾摘出マウスの腎被膜下に、単離したTlx1発現細胞を移植し、異所的に白脾髄や赤脾髄などの免疫微小環境が構築されているかどうかを検討する。同時に、Tlx1欠損(Tlx1-Cre/Cre)-ROSA26-Tlx1マウスを作製し、無脾症を呈するTlx1欠損マウスへTlx1を時限的に再発現させる事により、生体脾臓が再構築されるかどうかについて検討を行う。 また、既述した様にTlx1発現細胞が脾臓造血幹細胞ニッチであるという可能性を示すデータが得られているため、脾臓髄外造血微小環境のメカニズムの解明にも焦点を当て研究を進展させていく。現在、骨髄造血の不全に対する新規治療法として、脾臓造血ニッチ細胞の活用はアイディアとして存在しているが、実用化には至っていない。そこで、脾臓髄外造血の責任細胞(ニッチ)がTlx1発現細胞であるとの仮説を立て、証明する事を目標とする。同時に、髄外造血におけるTlx1発現細胞の制御メカニズム及び作用機序の解明は、脾臓髄外造血制御法への応用研究ならびにin vitroでの Tlx1発現細胞培養による造血幹細胞分化・増殖技術の開発へと繋げることが可能となり、当該研究分野の進展に大きく貢献できるものと確信している。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度で重点的な課題であった、脾臓Tlx1発現細胞の生体レベルでの性状解析において、胎齢期、胎仔期、そして成体期のTlx1CreERT2-IRES-Venus(Cre/+)マウスを用いて、Venus陽性細胞(Tlx1発現細胞)の生体レベルでの局在、細胞表面抗原の発現とその遺伝子変化を免疫組織学染色とフローサイトメトリー、そして網羅的遺伝子発現解析によって、Tlx1発現細胞とはどのような細胞であるかを明らかにする予定であった。しかし、遺伝子発現解析実験において、成体期のTlx1CreERT2-IRES-Venus(Cre/+)マウスを用いた所、Tlx1の発現量が低下しており、それに伴いVenusの蛍光強度が低下し、細胞回収が非常に困難であることが明らかとなった。従って、網羅的遺伝子発現解析に関しては、十分量の細胞を回収する事ができず、未だ網羅的遺伝子発現実験は行っていない。
|
次年度使用額の使用計画 |
成体期のTlx1発現細胞を効率よく回収する為に、解決策として、Tlx1CreER-IRES-Venus:ROSA-tdTomatoマウスを用いる。本マウスへタモキシフェンを投与する事で、投与時にTlx1-creERを発現している細胞をtdTomatoの蛍光によりマークする事が可能となる。さらに、現Tlx1発現細胞はVenus陽性tdTomato陽性であり、過去にTlx1を発現していた細胞はVenus陰性tdTomato陽性と明確に分類できる.さらに、タモキシフェン投与後直後に解析を行うため、tdTomato陽性細胞は限りなく現Tlx1発現細胞であると考えられる。この方法により、難易度の高い成体Tlx1発現細胞を回収し、網羅的遺伝子発現解析を行う。さらに、造血ニッチとしての能力が著しく亢進している可能性のあるTlx1過剰発現細胞においても同様の方法で回収し、本解析に加えることで、より効率的に多くの情報を得ることが可能となる。
|