研究実績の概要 |
mRNAのpoly A配列を分解するデアデニレーションは、適切なmRNA発現やタンパク合成に関与し、動物の発生や分化制御に重要な役割を果たす。CCR4-NOT複合体は酵母から哺乳類まで高度に保存されたmRNA分解系酵素複合体でありCNOTタンパク(CNOT1, CNOT2, CNOT3, CNOT6 or CNOT6L, CNOT7 or CNOT8, CNOT9, CNOT10)により構成されている。この複合体は、mRNAのpoly A配列をデアデニル化するが、デアデニル化されたRNAはエクソソームにより分解を受けると考えられている。今回、申請者はT細胞特異的に発現するLck-Cre、およびCd4-Creマウスを用いて、CNOT3遺伝子をT細胞特異的に欠損するマウスを作製した(T-CNOT3⊿マウス)。T-CNOT3⊿マウスにおいては、成熟T細胞への分化が阻害され、それはポジティブセレクションにおける異常によるものであることが明らかとなった。さらに、CCR4-NOT複合体はMAP3Kファミリーの一つASK1のタンパク発現を制御することで、TCR刺激による異常なJNKおよびp38の活性化を抑制していることが分かった。T-CNOT3⊿マウス由来の胸腺細胞はTCR刺激非存在下では細胞死を起こさないが、TCR刺激存在下では細胞死が誘導された。これらより、CCR4-NOT複合体はASK1の発現制御を介しTCR刺激による細胞死シグナルを抑制していることが明らかとなった。今回の研究において、我々はCCR4-NOT複合体によるpoly(A)鎖の長さ調節がT細胞のポジティブセレクションに関与するという新規メカニズムの一端を解明した。
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