本研究は,超高齢社会に向かう我が国の地方都市・農山村における持続可能な医療と介護サービスのあり方を継続的に検討するものである.都市部の経済原理を適応できない,もともと脆弱であった医療・介護サービスの提供基盤の整備が急務である地方都市を対象とする. 本年度は,前年度に分析を行った,特定地域の介護レセプトのデータを分析,及び在宅医療提供のシミュレーション結果を発展させ,地理的特徴を踏まえた人口分布や施設密度を加味したサービス提供圏について分析を行った. 地理的特徴として,都市部,都市近郊部,郊外市街地,中山間部,山間部と類型し,その特徴を捉えた.介護レセプトの分析からは,中山間部,山間部においては,介護サービスの選択肢が最近隣の事業所しかないため,最近隣事業所と利用事業所との位置に相関が見られた.逆に都市部,都市近郊部,郊外市街地においては,事業所の選択肢が多数になり,必ずしも近隣に存在する介護事業所を利用していない傾向が見られた.地域包括ケアの計画圏域である日常生活圏域と照らし合わせると,日常生活圏域外の介護事業所利用が多数見られたことから,計画が実態に沿っていない現象が確認されている. 在宅診療の分析からは,主には中山間部,山間部において,どの程度不足が生じているかを示すとともに,都市部,都市近郊部,郊外市街地においても,人口密度の高い地域において,人口と医師数のバランスが悪く,在宅診療が届かないエリアが存在することを定量的に示した. 上記2つの分析に併せ,将来人口推計値等を組み込んだ将来予測を行なった結果,医療・介護の選択肢が少なく人口が分散していることによる在宅医療・介護の限界が見える地域と,人口集中によりニーズが増大し在宅医療・介護の供給側の問題が存在する地域の2種の限界性を定量的に示した.当然のことながら,両者に必要な政策やマネジメント手法は異なる.
|