本研究は、日本及び英国における医学部入学者の学習経験についての比較研究を行うことにより、現代医学教育の課題を明らかにすることを目的としてきた。これまで医学部入学者選抜については制度論や評価論として論じられることが多かったが、本研究は現代医学教育実践が抱える課題を教育学的アプローチで明らかにし、今後の教育改革への示唆を得ることを狙いとした。この問題意識から本研究では、①英国医学部入学者選抜政策の変化と医学部入学者の学習経験についての実地調査、②日英における医学入学者選抜に関する統計的データ、文献等の収集・分析、③日本における医学生及び医学教育者の対話を通じての現代医学教育実践の課題抽出の三つを柱とした。①については、特に英国医学部入学者選抜に関する2010年代以降の報告書、論文、ウェブ記事などを収集・分析した。その 結果、エスニシティやジェンダー以上に、社会的・経済的格差が医学部入学者の学習経験に大きく影響していると考えられることが明らかとなった。この現状を受けて現在英国で取り組まれているWork Experience(主に16歳~18歳の医学部入学希望者を対象とした医療現場体験)の導入に注目し、それが医学生の医師としての自己形成や医学部の選択判断、その後の学習への影響について英国の医学生及び教育者にパイロット的インタビューを実施した。②については、日英で医学部入学者選抜についてどのような統計的調査・研究、議論がなされてきたかを比較分析し、政策動向の違いを検討した。③については、特に日本の文脈で医学教育の当事者である学生と教員がどのような実践的課題を実感しているかを、対話を通して抽出するという作業を行なった。
|