本研究は、新たな倫理的・社会的な問題が存在する再生医療や幹細胞研究の分野において、社会の信頼を得ながら実施するための体制構築には何が必要かを明らかにし、取るべき方策について検討し、提案することを目的としている。 最終年度となる平成30年度は、これまでに得られたデータの分析を進め、得られた結果の一部を日本生命倫理学会において発表した。具体的には、細胞を提供する「当事者」の立場となり得る人(不妊治療中のカップル)45名(男性4名、女性41名)を対象にした半構造化面接の結果、半数以上が気がかりだとする項目は「個人情報が保護されるか」、「新たに身体に負担がかからないか」、「研究により得られた知識・技術が、悪用されないか」などであった。提供するかどうか判断するにあたり説明を受けたい項目としては、半数以上が「研究の目的」、「個人情報の保護の方法」、「どんな成果が出るか」、「どこで誰が使っているか」を挙げ、より具体的な希望として、「胚盤胞を他者に提供しないこと」などの意見がみられた。 これらの結果から、現在の研究指針等でも、提供候補者に説明すべき事項が手続きとして規定されているが、対象者は、指針等では具体的に規定しないような「知識・技術を悪用しないこと」や「胚盤胞を他者に提供しないこと」など、研究者としての根幹にある考え方や姿勢を問題にしていることが示唆された。信頼構築に基づき、安心して細胞を提供できるような、よりよい研究体制構築のためには、法令等による他律的な管理方法も一法ではあるが、研究する側が、自律的に責任をもって行動をすること、そして、それらを社会に対して見える形で表明することが不可欠であると考察した。
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