研究課題/領域番号 |
15K19150
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
高浦 佳代子 大阪大学, 総合学術博物館, 特任助教(常勤) (10747653)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 学際的研究 / 医療文化財 / 生薬 / 緒方洪庵 |
研究実績の概要 |
本研究では、本研究は、医薬品の実体物が存在する緒方洪庵の薬箱と膨大な文書資料(医学書・書簡他)を用い、蘭方受容の過程を通じて未知の感染症に対する洪庵の治療戦略を理系的手法により検証することで、現代医療においても有用な未知の感染症に対する初期の治療戦略の再発見を目指すとともに、文化財・博物資料に対する実践性の高い文理融合・学際的研究モデルの構築を目的としている。初年度は、洪庵の薬箱収載生薬の同定を行う上で形態比較の基準となる生薬標本の整理及び調査を行った。その結果として、①大阪大学所蔵の証拠標本類(中尾万三・木村康一標本、ツムラ社製和漢薬標本、リリー社製標本、メルク社製欧州標本)について、現況写真と所蔵標本リストの整備を行うとともに保存処置を講じた。特に、津村研究所製の和漢薬標本については、該当標本についての文献資料を収集するとともに現在のツムラ研究所所蔵の標本についても調査して現況を記録し、情報整理を行った。大阪大学・ツムラ研究所双方の標本の現況写真データとともに全てのラベル情報を入力・整理した結果、大阪大学には当初作製された標本一式の大部分が良好な保存状態で保管されていることを明らかにした。また、②新たに大阪大学に寄贈された緒方洪庵の第二の薬箱について現状調査を行い、現況を写真撮影につきデジタル化するとともに箱本体や収められた瓶・道具類の寸法や重量を測定・記録した。また、遺された文字情報と文献情報をもとに収載されていた薬物の推定を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
緒方洪庵の薬箱収載生薬の外部形態調査及び比較対象となる証拠標本類の調査については基本部分が概ね予定通りに終了し、現況の撮影とリスト化を行うことができた。ただし、年度途中で申請者が産休に入ったため、薬箱収載生薬の細かい形態観察や調査結果の論文化に遅れが生じている。また、年度後半に予定していた文献調査も滞っている状態である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は薬箱の生薬については(A)それぞれの外部形態についてより詳細な観察を行うとともに、整理した証拠標本類との形態比較を行う。詳細観察においては、「適々斎薬室膠柱方」など緒方洪庵関連の資料に記載のある生薬を優先的に行う。また、(B)近世以降の医療文献より当時使用されていた生薬やその使用法、また蘭方系生薬の移入状況を調査することで、(A)の結果と併せて文理双方からのアプローチにより個々の基原植物の同定作業を行う。最終的には成果の出版を視野に入れ、網羅的な調査を実施する。 また、文献調査については文系研究者の協力・助言を仰ぐ形で、コレラ等の流行性感染症の治療記録についての記載のある文献の洗い出しに着手する。文献を列挙し、まとまった記述のある感染症について随時内容の解析、データ化を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度途中で申請者が産休に入り、産休の3ヶ月間とその前後に研究が停滞・中断したため、特に年度後半に計画していた研究がほとんど実施できず、その分を次年度に繰り越す結果となった。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度は、特に昨年大幅に遅れの生じた文献調査について、必要となる資料の購入や文献選定・解読にかかる専門的知識の提供(人件費)に重点的に研究費を充て、遅れた部分の課題を進める。旅費については、まずは成果発表や情報収集のために学会参加を積極的に行う。ただし、基原植物の同定作業において、他の機関に所蔵されている生薬標本類や、文献の調査を行う必要が生じる可能性が高いため、これらにも旅費を充てる。
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