研究課題/領域番号 |
15K19160
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
山本 祥之 筑波大学, 附属病院, 病院講師 (00649288)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | MDM4 / siRNA / dsRDC / p53 / ETS / RAS変異 / BRAF変異 / MDM2 |
研究実績の概要 |
癌抑制遺伝子であるTP53の機能は悪性腫瘍の約半数において変異型失活をきたしているが、野生型TP53腫瘍においてもTP53の機能を抑制する癌遺伝子であるMDM2やMDM4によりp53の活性は低下している。そこで我々は野生型TP53悪性腫瘍を対象にMDM2やMDM4を標的としたDNA修飾siRNA (dsRDC) の開発を行ってきた。さらに、MDM4はMAPKシグナル伝達経路の下流にあるETSの転写活性化を介して発現が亢進すると推定されており、本研究では、MDM4 dsRDCとMAPKシグナル伝達阻害薬との併用効果を検証し、新たな治療戦略を確立することを目的としている。またMAPKシグナル下流のERKがMDM2と協調的にFOXO3aの作用を抑制し腫瘍増殖を促進するとの報告もあり、追加でMDM2 dsRDCと MDM4 dsRDCとMAPKシグナル伝達阻害薬との3剤併用の効果も検討することとした。 平成27年度報告では、in vitroにおいて複数のMDM4高発現野生型TP53細胞株に対してMDM4 dsRDCとMEK阻害薬であるTrametinibの相乗効果を確認した。 平成28年度では、MDM2 dsRDCとMDM4 dsRDCとTrametinibの併用効果を、野生型TP53細胞株である胃癌細胞株SNU-1(KRASコドン12変異)、大腸癌細胞株HCT-116(KRASコドン13変異)、肺癌細胞株A549(KRASコドン34変異)を用いて検討し強い腫瘍増殖抑制効果と相乗効果を確認した。Western blot法を用いてp53、p21、アポトーシス関連タンパク (PUMA、Noxa など) の発現変化をみたところ、MDM2 dsRDCと MDM4 dsRDC とTrametinib併用においてp53、p21の発現増加が得られ、細胞周期停止による腫瘍増殖抑制効果が示唆された。また、フローサイトメトリーを用いた細胞周期アッセイでの実験でも同様に3剤併用において細胞周期停止と、アポトーシス誘導が示唆される結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今後のin vivoでの抗腫瘍効果の検討を見据えて、MDM2, MDM4 dsRDCのデリバリーツールの開発研究も平行して行った。候補となるDrug Delivery System (DDS)製剤としてsuper Carbonate apatite (sCa) を用いることとし、大阪大学よりその技術提供を受けたが、自施設での精製法の確立およびマウスへの投与に関する安全性の評価に時間を要した。また、MDM2 dsRDCとMDM4 dsRDCのsCAへの導入にも時間を要した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究でKRASやBRAF変異を有するMDM4高発現野生型TP53細胞株に対するMDM4 dsRDCとMEK阻害薬の併用に加え、MDM2 dsRDCと MDM4 dsRDCとMEK阻害薬の併用で、さらなる相乗効果が確認できた。今後は、この相乗効果のメカニズムの解明のための実験を推進していく。具体的には、TrametinibによるETSの活性阻害とMDM4 dsRDCの作用がMDM4の発現抑制にどれほど貢献しているか、またTrametinibによるMEK→ERKシグナル伝達阻害とMDM2 dsRDCによるMDM2発現抑制がFOXO3aの分解抑制にどれほど貢献しているかを評価検討する。また、MEK阻害薬の他にも、BRAF阻害薬等の他MAPKシグナル伝達経路に関わる阻害薬との併用でも同様の相乗効果が得られるかを検討していく。さらに、相乗効果が確認できた併用薬ではin vivo実験でその抗腫瘍効果を検討していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画よりも実験がやや遅れたために購入予定であった物品費の購入を見送った。
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次年度使用額の使用計画 |
29年度に予定するin vitro, in vivo実験に必要な物品を購入する費用として使用する。
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