研究課題
本研究は血管新生阻害薬の耐性化の機構にがん特異的な代謝変化が寄与する可能性を確かめ、またその克服を目指すことを目的としている。薬物抵抗性の高い腎細胞がんに対して検討を行った。まずは非腫瘍近位尿細管由来細胞株(HK-2)を対照として、腎細胞がん細胞株(786-O)の代謝状態を比較した。がん細胞では一般に解糖系が亢進して代謝回転が高まるため、糖取込能が高いとされる。Intactな細胞における糖取込みを2-DGアッセイで確認した結果、786-OはHK-2の1.5倍程度に有意に糖取込みを増加させた。また、細胞内代謝物の一斉分析するための条件検討を行い、786-O細胞で約50種の代謝物を検出する系を立ち上げた。一方、代謝の異常はエピゲノムの異常に起因するという観点からエピジェネティック治療薬が抗がん薬抵抗性を解除する可能性が期待されている。そこで現在臨床で用いられるvolinostatと同様に強力なヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害活性を持つtrichostain A(TSA)を用いてSUとの併用効果を検討した。その結果、SU単独時と比較してTSAの併用により増殖抑制やアポトーシス誘導作用が強まった。併用効果は相加的であったが、この傾向は786-Oを含む3つのヒト腎細胞がん株で同様であり、確かな効果と考えられた。TSAによるアセチル化修飾を受ける因子にがん抑制遺伝子をコードするp53が存在するが、TSA群では確かにアセチル化p53(活性化体)の発現が高まり、p53により転写促進される下流経路の亢進が確認された。p53は代謝調節にも関係が深い因子である。そこでTSAによるp53誘導を期待し、CE-TOFMSを用いて24時間薬物曝露後の786-Oの細胞内代謝物の一斉分析を実施した。その結果、TSAは解糖系・アミノ酸代謝・ヌクレオチド代謝を全体的に抑制する傾向を示した。
2: おおむね順調に進展している
Sunitnib耐性株での検討は当初もっと早期に取り掛かる予定であったが、予想よりも耐性化が生じづらく、H27度は検討できなかった。現在、sunitnib長期曝露下で順調に育ちつつあるため、H28年度にまとめて検討する。
H27年度の検討より、SUの併用薬としてHDAC阻害薬のTSAが候補に挙がった。28年度はこれを受けて以下の検討を実施する。1)実際にSUと併用した際のメタボロミクスを実施し、アポトーシス感受性に対する代謝変化の関与を検証する。2)高容量のSU曝露により樹立したSU耐性細胞株に対して、SUとTSAの併用効果を増殖、アポトーシス、代謝における変化から確認する3)TSAの作用によって変化する遺伝子群とメタボローム解析により変動する代謝経路の関係性について、クラスター解析等を駆使して集約的に評価し、前年度に観測されたp53のアセチル化誘導に起因する経路を含め、TSAの作用点となるターゲット経路を客観的・定量的に探索する。4)3)と関連して、他のHDAC阻害薬の活用性や他の血管新生阻害薬への応用性を含めて耐性克服手段を提案する。
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