研究課題/領域番号 |
15K19164
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研究機関 | 浜松医科大学 |
研究代表者 |
村上 元 浜松医科大学, 医学部, 特任研究員 (70613727)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | コカイン / 依存 / ドーパミン / MHCI |
研究実績の概要 |
ウイルスは末梢組織では直接MHCIの機能を阻害したり、発現そのものを抑制することが知られている。そこで本実験では、母胎に感染したウイルスが胎児の脳に侵入しドーパミン神経細胞に直接感染することで、ドーパミン神経細胞に発現するMHCIが減少し、薬物依存への脆弱性を引き起こす可能性を調べた。方法は新生児の脳室にウイルスを注入し、脳室から脳内に移行し神経細胞へ感染した後、胎児の脳におけるウイルスの分布を観測した。ウイルスにはEGFP遺伝子を組み込むことで、擬陽性の可能性が無くウイルスの存在を評価することを可能にした。その結果、海馬や大脳皮質等に強いウイルス感染が確認できた。しかし、ドーパミン神経細胞が存在する中脳では感染が確認できなかった。 そこで中脳以外の脳領域に発現するMHCIが薬物依存への脆弱性を引き起こす可能性を考慮し、どの脳領域でMHCIが発現しているかを調べた。実験は健常マウスから薬物依存に関係する様々な脳領域を取り出し、MHCIの発現量をリアルタイムPCR法により調べた。また各脳領域ではMHCIが局在する神経細胞の結合部である後シナプス(スパイン)の量が異なる。そこで個々のスパインにおけるMHCIの発現量を比較するために、スパインのマーカータンパク質であるNeurogranin(Nrgn)の発現量も同時に調べ、Nrgnの発現量に対するMHCIの発現量の比を計算することでMHCIの発現量をスパイン量で規格化し評価した。その結果、ドーパミン神経細胞を含む中脳でもっとも多くMHCIが発現し、先行研究によりMHCIが発現することが知られていた海馬に比べ、約10倍ものMHCIがドーパミン神経細胞に発現することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の遂行に最も重要である実験を2つおこない、その内の1つが申請書の仮説を支持するものであった。仮説を支持しなかった実験においては実験条件の検討をおこなう必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの実験では、新生児の脳室へのウイルス注入による胎児のドーパミン神経細胞への直接感染は観測出来なかった。この可能性の一つとしてウイルス注入の時期が考えられる。すなわち胎児期や新生児期といった発達期の脳は著しくその構造が変化する。本実験では生後直後の一点に絞り実験をおこなったが、この時期では脳構造がある程度確立しており、構造的にウイルスがドーパミン神経細胞に到達しにくい可能性がある。またMHCIは様々なサイトカインによってその発現が制御されることが知られている。従ってウイルスが直接目的細胞に到達し作用しなくても、他の神経細胞に感染することでサイトカインが分泌され、ドーパミン神経細胞のMHCI発現を変化させる可能性が考えられる。これらの可能性を検討するために発達期のウイルス感染モデルとして良く用いられている、炎症誘発剤であるpolyinosinic-polycytidylic acid(poly(I:C))を胎児期に投与し、申請書と同様の検討をおこなう予定である。またMHCI発現の局在をより詳細に調べるために、神経細胞トレーサーと組み合わせ、どの脳領域に存在する神経細胞とドーパミン神経細胞とのシナプス結合を形成するスパインに発現するか調べる予定である。
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