我々は前年度の結果から、新生児の脳室へのウイルス注入による胎児のドーパミン神経細胞への直接感染が観測できなかったことから、ウイルスがドーパミン神経細胞に間接的に影響を与える可能性を検討した。すなわち、ウイルスが直接目的細胞に到達し作用しなくても、免疫細胞を活性化することで間接的にドーパミン神経細胞のMHCI発現を変化させる可能性を考えた。これらの可能性を検討するために発達期のウイルス感染モデルとして良く用いられている母胎免疫活性化モデルを用いた。すなわち、炎症誘発剤であるpolyinosinic-polycytidylic acid(poly(I:C))を胎児期(9GD)に投与し、胎児が生まれ成獣(9W-12W)になった後に中脳の腹側被蓋野を切り出しMHCIの発現量が減少するかを調べる。まず母胎免疫活性化法により生まれた胎児が従来の報告と同様の行動異常を示すかを調べるためにPrepulse Inhibition (PPI)試験を行った。当試験では先行する小さな刺激による直後の強大な刺激からの不随意的な保護システムを評価する。発達期のウイルス感染モデルマウスは統合失調症モデルとしてよく用いられており、統合失調症の患者では上記の抑制システムが働かないことが知られ、動物に対しても統合失調症の指標として良く用いられる。我々の実験でもPPIが母胎免疫活性化法により生まれた胎児で阻害されていることが確認できた。また自発的行動量を1週間計測した結果、行動量が母胎免疫活性化法により生まれた胎児で上昇していることが確認できた。ただし本結果は実験個体数が少なく、今後繰り返し行うことで統計的に優位な結果であることを証明する必要がある。
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