研究課題/領域番号 |
15K19166
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
秋好 健志 慶應義塾大学, 薬学部(芝共立), 助教 (50399143)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | イリノテカン / 消化管障害 / 吸収遅延 / APTT |
研究実績の概要 |
本年度においては、ラットにイリノテカンを静脈内反復投与することにより、消化管障害モデルラットを作出した。本モデルラットにおいて、ダビガトランエテキシラートを経口投与した結果、活性代謝物であるダビガトランの血漿中濃度は、コントロール群と比べ約25%程度にまで低下した。さらに、その際のダビガトランの抗凝固作用も有意に低下していた。また、本モデルラットにおいては、ダビガトランを基質とするp糖蛋白質の消化管内での発現が亢進していた。以上より、イリノテカン誘発性消化管障害においては、p糖蛋白質による消化管内への排泄の亢進により、ダビガトランの血漿中濃度が低下し、それに伴い、薬理作用(抗凝固作用)の低下が引き起こされることが示唆された。本研究成果については、第26回日本医療薬学会および日本薬学会第137年会にて報告した。 一方で、これまで検討してきた 5-FU による消化管障害モデルラットにおいては、P糖蛋白質の代表的基質であるジゴキシンを用いて、当該ラットの小腸を用いた反転腸管法により、ジゴキシンの透過性を検討した。その結果、消化管障害群においては、コントロール群と比べて、上部消化管において特にジゴキシンの吸収が大幅に低下していた。また同様にジゴキシンの体内動態について検討を行った結果、消化管障害モデルラットにおいて、ジゴキシンの大幅な吸収の遅延が確認された。この原因については不明であるが、本モデルラットにおいては、消化管上皮粘膜の障害により受動拡散に寄与する表面積の減少により、吸収が遅延したと考えられる。本研究成果については、第 10 回次世代を担う若手医療薬科学シンポジウムにて報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在まで、おおむね計画通りに研究を展開している。現在は、5-FUおよびイリノテカンによる消化管障害における吸収動態に寄与するさまざまな因子について、各プローブ薬物を用いて詳細を検討している。また、本モデルラットにおける各種体内同動態関連遺伝子の発現変動についても研究を開始している。
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今後の研究の推進方策 |
5-FUおよびイリノテカンによる消化管障害モデルラットにおいて、薬物動態に関連する遺伝子の発現について網羅的に解析する。これにより、抗癌剤誘発性消化管障害時において、どのような併用薬が、その体内動態に影響を受ける可能性があるのか明らかにする。その結果に基づき、実際にモデルラットでの体内動態を評価する。 一方で、in vitroにおいて消化管上皮細胞株を用いて、5-FUおよびイリノテカンを暴露させた際の併用薬の膜透過性を評価することにより吸収速度を定量的に解析する。これにより、in vitro-to-in vivo extrapolation の手法を用いて、本障害時における併用薬物のヒトにおける体内動態を予測し、臨床的意義を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度の末ごろの検討において、予定していた in vivo 実験の大半が終了した。一方で、in vitro検討については、いくつかの条件検討のための調査が必要であり、その調査結果に従って、次の検討を行うこととした。そのため、その時点での残予算分を次年度で使用することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額とした分の予算を用いて、消化管上皮細胞における薬物透過性について検討を進める。具体的には、大腸癌細胞由来で、消化管吸収におけるin vitroモデルとして汎用されているCaco-2細胞を用いて、5-FUおよびイリノテカンを暴露した条件下にて、各種薬剤の細胞膜透過性を定量的に評価する。これから得られた透過係数より、in vitro- to- in vivo extrapolationの手法に基づき、in silicoにて仮想ヒト臨床試験を実施し、本研究の臨床的意義について明らかにする。
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