5-FU などの抗がん剤は、下痢を伴う重篤な消化管障害を引き起こすが、その際、併用される薬剤の消化管吸収動態に影響を与える可能性がある。本研究ではこれら抗がん剤暴露下における併用薬剤の消化管吸収動態について明らかにすることを目的に検討を行った。まず、5-FU を連続経口投与することで消化管障害を誘発させた消化管障害ラットにおいて、P 糖タンパク質 (P-gp) 基質である抗凝固薬ダビガトランエテキシラート (DABE) のバイオアベイラビリティ (BA) が 大幅に低下することを明らかにした。さらに、この時のDABE による血液凝固能は、有意に低下していた。また、このときの BA 低下の原因として、小腸における受動拡散および P-gp 発現量の変動が寄与している可能性が考えられた。そこで、5-FU 誘発消化管障害による DABE の BA の低下要因を評価するために、受動拡散経路 P-gp 発現の変動について検討した。その結果、消化管障害モデルラットにおいて、小腸 P-gp 発現量は、有意に上昇していることが明らかとなった。つまり 5-FU 誘発消化管障害による DABE の BA の低下は、小腸 P-gp 発現量上昇が寄与している可能性が明らかとなった。次に、P-gp 基質であるジゴキシン (DGX) の消化管吸収に対する5-FU 暴露の影響をラット反転腸管を用いて定量的に評価した結果、消化管障害により、DGX 単独投与時の DGX の取り込み量は有意に低下しており、さらに 受動拡散マーカーであるアンチピリンの透過は有意な影響を受けなかった。すなわち、消化管障害により DGX の消化管吸収は有意に低下するが、この低下は P-gp の機能亢進に起因する可能性が明らかとなった。
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