研究課題
現代社会において、がんは今なお根治が困難である。近年では抗体医薬品など分子標的薬の開発が進められているが、がん薬物療法において効果が不十分である、あるいは重篤な副作用が発現する、といった理由から治療効果が十全に得られるわけではないことなどから、有効・安全な化学療法の開発が希求されている。体内時計機構の研究が進むと共に、抗がん剤の投与時刻を考慮することの有用性とその機序が徐々に明らかとなってきているが、未だ臨床には一部しか用いられていないのが現状である。mTORシグナルは生体の種々の機能に影響を及ぼすことが知られており、がんを始めとした疾患の治療標的にもなっている。本研究では、疾患モデルとして腫瘍モデルマウスを用いて、mTORシグナルと体内時計機構との相関に着目し解析を行う。そして、mTORシグナルと体内時計機構の新規のメカニズムを利用することで既存の抗がん剤を用いた薬物療法の効率化を志向した治療法を探索する。(平成27年度)腫瘍モデルマウスを用いたin vivoを中心としたmTORシグナルとその制御因子の日周リズム解析、(平成28年度)化合物や食餌を用いたシグナル伝達の操作によるmTORと体内時計の日周リズムの調節、について各年度計画を予定していた。これまでに、腫瘍モデルマウスにおいて、腫瘍・正常組織においてmTORの活性、およびトランスポーターである遺伝子Xの発現に日内変動が存在していることを明らかとした。また、in vitro解析においてmTOR阻害剤の曝露による時計遺伝子発現への影響を見出した。今後、mTORと体内時計機構との相関についての詳細を明らかとし、その機構を基盤とした体内時計のコントロールと時間治療への応用を検討する。
2: おおむね順調に進展している
現在までに、in vivo/in vitroにおけるmTORシグナルの時刻依存性を見出し、またmTORシグナルの活性変動によって一部の時計遺伝子の発現が変化することを見出している。
現在までに、腫瘍モデルにおけるmTOR活性の日内変動を同定し、また、mTORシグナルの阻害によって一部の時計遺伝子の発現が影響を受けることを見出している。今後は、in vivo/in vitro両方の観点からmTORと体内時計機構の相関について精査し、腫瘍モデルマウスの体内時計機構を正常組織・腫瘍組織においてコントロールできる方法について検討する。得られた結果を基に、新しい薬物治療のプロトコルの開発を行う。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件)
The Journal of biological chemistry
巻: 291 ページ: 7017-7028
10.1074/jbc.M115.713412.