本研究では,新規分子イメージング手法であるイメージング質量分析(IMS)を用いて抗体医薬品の組織内分布情報の可視化を行うことを目的とした.申請者は,試料組織上で分子の位置情報を保ったままタンパク質の変成・消化を行い,得られた消化産物のIMSを行うことで目的を達成を試みたが,量が多い,いわゆるアバンダントなタンパク質が主に検出されるため当初想定されていた目的の達成に至らなかった.一方,隣接切片上に抗体医薬を滴下した模擬試料から抽出したタンパク質の場合,液中消化を行い,三連四重極型質量分析計(QMS)を用いた液体クロマトグラフタンデム質量分析計(LC-MS/MS)で対象となるペプチドを検出することは可能であった.この場合は,分離しマルチプルリアクションモニタリングを用いたため,LC内部での分離とQMSでのノイズの排除によりシグナルノイズ比が向上するため検出可能である.一方,IMSでは組織上で直接イオン化しそれをイオントラップに全量導入するため,分離精製する工程はないため,ダイナミックレンジが狭くアバンダントなペプチドが導入された場合,対象となる消化ペプチドの検出が困難になることが組織上でシグナルが得られない1つの要因であると考えられる.組織上消化酵素法の検討を行ったが,今回対象としたハーセプチンに関して顕著な改善が見られなかったため,提案手法(組織上消化法とイメージング質量顕微鏡を組み合わせた手法)ではIgGを改変することで製作された抗体医薬品の可視化は非常に困難であると考えられる.マウス肝臓切片上に滴下した抗体医薬品であってもシグナルを得ることができなかったため,臨床検体で検討するまで至らなかった.
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