研究実績の概要 |
私は以前、約3分の1の乳癌症例で基本的転写共役複合体メディエーターのサブユニットMED1の遺伝子座増幅を発見し、MED1とMED24が協調してエストロゲン受容体を介する正常マウス乳腺の思春期発育やヒト乳癌細胞の増殖を担うことを報告した。本研究ではMED1が核内受容体等様々なDNA結合転写因子やPGC1等アダプター分子に共役することに注目し、転写の視点から乳癌の発症機序や特性を解明し、さらに乳癌の発症・増殖・転移・予後・治療反応性等を遺伝子の変化で予測可能にし、それらの検査方法を考案するための基礎データを得ることを目的としている。平成29年度は、平成28年度に引き続き我々の保有する各種MED1変異マウス[MED1 singke KO, MED1(LX) KI]を、HER2過剰発現による乳癌モデルマウスと交配したMED1変異乳癌モデルマウスの表現型(週齢別乳癌発症率、触診による乳癌の増殖速度の定量、転移の有無、生存曲線等)を解析した。核内受容体との結合部位を廃絶したMED1(Lx) KIマウスは発症率・発症後の乳癌の増殖速度において、野生型と比較し有意に低下を認めた。一方MED1 singke KOマウスは野生型と比較してもこれらの項目で有意な低下は認めなかった。従って乳癌の発症にはMED1核内受容体結合部位が重要な役割を担っていることが強く示唆される。この機序を解明するため、MED1と核内受容体ERの結合に関与すると報告のあったCCAR1に着目した。科研費「研究活動スタート支援」により作成したCCAR1 KOマウスと乳癌モデルマウスを交配しその表現型を解析中である。さらにMED1(LX)KIマウスを交配した乳癌モデルマウスを作成中であり、新たに採択された若手研究「ホルモン依存性癌と転写コアクチベーターMED1:診断と治療標的の可能性」にて引き続き検討していく。
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