研究課題/領域番号 |
15K19186
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
黒崎 祥史 北里大学, 医療衛生学部, 助教 (20602030)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | megalin / 近位尿細管 / 酸化ストレス |
研究実績の概要 |
1. ヒト近位尿細管上皮細胞(HK-2)を用いて、インスリン投与がメガリン発現に及ぼす影響を検討した。0-3 ug/mLのインスリンを添加した際、メガリン発現に有意な変化が見られなかった。 2.高血糖状態(30 mM グルコース)でHK-2を培養したところ、メガリンの発現が亢進することが明らかになった。また、過酸化水素の添加によっても同様にメガリンの発現が亢進した。すなわち、高血糖状態において、メガリンは酸化ストレスの影響を受けて発現が亢進する可能性が示唆された。さらに、酸化ストレスを添加した状態でFITC標識アルブミンを添加して、アルブミンの細胞内取り込みを比較したところ、酸化ストレス添加時にアルブミンの取り込みが上昇した。 3.酸化ストレスによるメガリン発現亢進にインスリンシグナルが関与するか検討するため、酸化ストレス添加によりインスリンシグナルの一部であるAktのリン酸化とmTORの活性化(S6キナーゼのリン酸化)について検討した。HK-2細胞に酸化ストレス添加して30分後に、Aktリン酸化とmTORの活性化が確認できた。 4.高脂肪食負荷ラットの作製を行う予定であったが、高血糖および酸化ストレスの影響でメガリン発現が上昇する可能性が示唆されたため、初めにストレプトゾトシン(STZ)投与により1型糖尿病モデルを作製して、腎皮質メガリン発現をウエスタンブロットおよび免疫染色で確認した。STZ投与後2週間の糖尿病ラット(DMラット)は、高血糖、糸球体濾過率上昇、腎肥大が見られたが、尿中アルブミンはコントロールと有意な差は見られなかった。また、腎皮質中の3-ニトロチロシンが上昇しており、酸化ストレスが亢進していることが明らかになった。このDMラットにおいて、コントロールと比較して腎皮質メガリンの発現が有意に上昇していることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1.インスリン添加のよりメガリンの発現の変化を観察できなかった。酸化ストレスによるメガリン発現の変化を検討する中で、培養液中のアルブミン濃度がメガリン発現に影響を及ぼすことが明らかとなり、培養条件の検討が重要であった。そのため、インスリン添加時の培養条件を再度検討することで、改めてインスリン添加によるメガリン発現の変化を解析する必要がある。また、先行研究において、インサートウェルを用いてインスリンを細胞の基底側より添加することで、タンパク質の取り込みが上昇するとの報告があった。そのため、同様の条件で培養することで、メガリン発現の変化を観察できる可能性が考えられる。インスリンの添加によりメガリン発現およびタンパク質取り込みの増加が確認された時点で、細胞内オートファジー機構にメガリン発現に伴うタンパク質取り込み上昇が及ぼす影響を検討する予定である。 2.酸化ストレスの添加が、HK-2細胞におけるメガリン発現を有意に上昇させることが初めて明らかとなった。現在は、酸化ストレスによるメガリン発現上昇のメカニズムを解析すると同時にタンパク質の取り込み上昇がHK-2細胞に及ぼす影響を検討中である。培養液中のタンパク質(アルブミン)濃度により、メガリン発現を含めて、得られる結果がかなり変化するため、培養条件の検討に時間を要している。この検討が確立されれば、インスリン添加によるメガリン発現上昇がHK-2細胞に及ぼす影響を検討する際に、同様の条件を用いることでスムーズに結果が得られるものと考える。 3.培養細胞の結果から、予定にあった高脂肪食負荷ラットに先行して1型糖尿病ラットモデルによる実験を行った。1型糖尿病モデルによるメガリン発現の上昇を確認できたため、同様の実験を高脂肪食負荷ラットで行うことで、高脂肪食負荷とメガリン発現の関係を検討できる。
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今後の研究の推進方策 |
1.インサートウェルを用いてHK-2細胞の基底側よりインスリンを添加する予定である。これまでのように頂端側からの添加よりも、メガリン発現に及ぼす影響が大きくなる可能性があるため、差を見出しやすいと考える。また、酸化ストレスがインスリンシグナル(Akt-mTOR)を介してメガリン発現を上昇させる可能性を考え、AktやmTORの阻害剤を用いて、酸化ストレス添加によるメガリン発現調節のメカニズムを検討する。 2.メガリン発現亢進が近位尿細管上皮細胞に及ぼす影響を検討する。過剰なタンパク質の取り込みが行われることで、炎症・アポトーシス・リソソーム不全等が起こることが報告されている。メガリン発現亢進によっても同様の細胞障害が起こることを考え、インスリン添加、高グルコース培養、過酸化水素添加、によりメガリン発現を上昇させ、炎症(IL-1B, IL-6, TNF-a, MCP-1)・アポトーシス(TUNEL染色、Caspase 3、Bax)・リソソーム不全(LAMP1、Cathepsin D、リソソーム染色)の検討を行う。また、siRNAを用いたメガリンノックダウン細胞を作製し、その影響を比較検討する。 3.高脂肪食負荷により2型糖尿病モデルラットを作製する。また、腎保護薬でありインスリン抵抗性改善作用(PPARγアゴニスト作用)のあるテルミサルタン投与群を作製し、その影響を確認する。腎皮質にて、エンドサイトーシス受容体(メガリン、キュビリン)、インスリンシグナル関連分子(Akt、p-Akt、IRS-1、p-IRS-1、IRS-2、p-IRS-2)、オートファジー関連分子(AMPK、p-AMPK、S6k)、アポトーシス関連分子(cleaved caspase 3)の発現量をウエスタンブロットおよびリアルタイムPCRにて測定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
細胞実験において、インスリン添加によるメガリン発現の上昇が明確に確認できなかったため、その後予定していたメガリン発現上昇とタンパク質取り込み亢進が細胞に及ぼす影響に関する検討が進まなかった。特に、フローサイトメータによりリソソーム染色の定量を行う予定であったが、フローサイトメータを使用しなかったため、そこで消耗品費が生じなかった分、使用額が少なくなった。
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次年度使用額の使用計画 |
インスリン添加時の細胞培養条件を詳細に検討することで、メガリン発現の上昇を確認したい。そのため、インスリンや関連試薬の購入に余剰金を使用する予定である。また、タンパク質の過剰な取り込みによる細胞障害を検討するためにフローサイトメータを使用するが、それに係る消耗品の購入に使用する。
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