研究実績の概要 |
腹膜透析の致死的な合併症である被嚢性腹膜硬化症は、現在有用な治療法がなく、その回避には腹膜劣化の早期発見が重要である。しかし、腹膜劣化の鋭敏な指標がないため、簡便で再現性の高い検査法の確立が重要な課題となっている。現在使用されている日常的な検査項目では、腹膜透析排液中の膵リパーゼが腹膜劣化のよい予測因子となることが示され論文が受理された。腹膜は一層の中皮細胞で覆われておりERC/mesothelinは中皮細胞から分泌される。ERC/mesothelinはfrin様プロテアーゼで切断された後、N末端の分泌型N-ERC/mesothelin(N-ERC)と膜に結合したC-ERC/mesothelin(C-ERC)に分かれる。腹膜透析排液中のERC/mesothelinの検討においては、腹膜透析排液中のERC/mesothelinは腹膜機能と正相関を示し(N-ERC: r=0.69, p<0.001、C-ERC: r=0.62, p<0.001)、腹膜劣化を目的変数とした多変量解析において、年齢、腹膜透析期間、GFRで調整後も腹膜透析排液中のERC/mesothelinは有意な予測因子であり、腹膜劣化指標となることが示された。これらの平成27年度、28年度の結果をもとに他の腹膜劣化指標と比較を行いERC/mesothelinの腹膜劣化指標としての有用性を検討した。腹膜劣化との関連が示唆される指標である腹膜透析排液中のIL-6、VEGF、CA125、ヒアルロン酸について、腹膜劣化を目的変数とした多変量解析において、年齢、腹膜透析期間、GFRで調整後も有意な予測因子であったのは、腹膜透析排液中のIL-6であった。腹膜劣化(腹膜平衡試験のHighカテゴリー)を判別するカットオフ値は、N-ERC 28.9 ng/mLで感度90%、特異度65%、C-ERC 3.98 ng/mLで感度80%、特異度47%、IL-6 61.9 pg/mLで感度80%、特異度89%であった。以上より、腹膜透析排液中のN-ERCの腹膜劣化指標としての有用性が示唆された。
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