研究課題/領域番号 |
15K19188
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研究機関 | 国立医薬品食品衛生研究所 |
研究代表者 |
渡辺 麻衣子 国立医薬品食品衛生研究所, 衛生微生物部, 室長 (00432013)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | アレルギー・免疫関連疾患 / 抗体 / 真菌 / ダニ / 喘息 |
研究実績の概要 |
東日本大震災発生後、仮設住宅居期間の長化が予想されている。本研究では、高濃度真菌汚染室内に居住する仮設宅民を対象集団検診室内に居住する仮設宅民を対象に集団検診を行い、続いて患者自宅のアレルゲン汚染状況を調査する。 平成27年度は、仮設住宅住民の呼吸器アレルギー疾患発生実態把握を行う目的で、呼吸器集団検診を実施した。ここで得られた血清に対して、カビ特異的IgE価の測定を行うにあたり、被災地の室内環境から高濃度・高頻度で分離されたカビ菌種Aspergillus Section Restricti(A. restrictus、A. penicillioides)およびEurotium herbariorumは精製抗原の市販が無く、また、現行の蛍光ELISA法では迅速に多量の検体を低予算で測定することができないから、信頼性の高い結果が得られるカビ特異的IgE価測定法として、CLEIA法(化学発光酵素免疫測定法)の測定系の構築を行うこととした。平成27年度は、カビにおいて最もアレルギー患者数が多く、強いアレルゲンとなることがよく知られるAspergillus fumigatusを用いて、抗原エキス精製およびCLEIA法の構築を行い、既存の蛍光ELISA法による測定方法と矛盾なく、より感度が高く、迅速に測定することに成功した。 さらに、検診受検者寝具に付着するダニ抗原を蛍光ELISA法によって定量するにあたり、現行の方法では測定にかかる時間と予算を多量に要することから、抗原と結合する特異的抗体を改良した蛍光ELISA法の構築を行うこととした。平成27年度は、特異的ウサギ抗体作製のためのヤケヒョウヒダニ抗原タンパクDer_f_1およびDer_p_1の組み換えタンパクの合成を行い、ウサギに免疫するのに十分量の組み換えタンパクを得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年の6月および7月に石巻市応急仮設団地で、協力協力者の医師と共同で呼吸器アレルギー集団検診を実施し、215名の仮設住宅居住者および35名の一般住宅居住者の受検があった。検査項目として、胸部X線検査、血液検査、肺機能検査、聴診、問診、身体検査を行った。血清学的検査以外の臨床診断結果は現在解析中である。 CLEIA法による特異的IgE測定法の構築を行った。96-well microplateの各wellにカビ抗原を貼り付け、その後wellに患者血清を添加して抗原抗体反応を起こし、抗IgE-HRP抗体と化学発光基質を添加して、化学発光強度を測定できるプレートリーダーで計測し、患者血清中のカビ特異的IgE濃度を算出した。抗原には、Greer社が販売しているアレルゲンのraw materialを用いた。MaterialをNH4CO3でアレルゲンを抽出後、ろ過して菌体を除去し、ろ液を凍結乾燥で粉末化後、PBSで溶解して抗原エキスとした。平成27年度は、Aspergillus fumigatusを対象として、CLEIA法の構築を行った。現行の蛍光ELISA法ですでに特異的IgE値を測定済みの血清検体を用い、CLEIA法による測定を行ったところ、現行法と同程度の迅速性と、より高い感度の測定結果が得られた。 また、受検者のうち同意を得られた101名に対して、寝具に付着するダニ抗原をテープ法によって採取した。ヤケヒョウヒダニアレルゲンタンパクDer_f_1およびDer_p_1を効率的に測定するための蛍光ELISA測定法構築のため、NCBIデータベースからダウンロードしたヤケヒョウヒダニ抗原タンパク遺伝子Der_f_1およびDer_p_1の人工遺伝子を作製し、大腸菌にクローニングし、組み換えタンパクの合成を行った。その結果、ウサギに免疫するのに十分量の組み換えタンパクを得た。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、引き続き仮設住宅住民を対象とした呼吸器アレルギー集団検診を実施しする。 2年間に採取した受検者血清に対して、平成27年度に構築したCLEIA法を用いて、カビで最もアレルゲン性が高いことで知られるA. fumigatus、および被災地住環境での検出頻度が高いA. amstelodami、E. herbariorum、およびA. restrictusの特異的IgE濃度の測定を行う。なお、この際に、平成27年度に精製に成功したA. fumigatus抗原の他、Greer社のraw materialからA. amstelodami抗原エキス、および過去に研究代表者が仮設住宅から分離した保存株を用いた培養物からE. herbariorumおよびA. penicillioides抗原エキスの精製を行い、抗原エキスとして用いる。さらに、ヤケヒョウヒダニ抗原の蛍光ELISA法による測定法の構築を継続し、測定法を完成させる。その後、2年間に採取した寝具付着物サンプルに対して、寝具単位面積当たりのDer_f_1およびDer_p_1付着量の測定を行う。これらの結果および臨床診断結果をまとめ、2年間の結果と比較して経時的解析を行う。 また、受検者のうち強いアレルギー反応を示した受検者の3名程度に対して、自宅の真菌相調査を行い、分離株を用いての抗原作製を行う。これら真菌抗原およびヤケヒョウヒダニ抗原を用いて、協力研究者医師のもと、患者に対して、眼反応および皮内反応等の抗原曝露試験を行う。これらの結果から、アレルゲンの特定を行う。 本検診受診者集団と過去に行われた非被災集団との間で、結果の比較解析を行う。また、発症者と非発症者との間で、真菌・ダニアレルギー発生率について比較解析する。以上の結果から、住民のアレルギーの発症と相関関係のあるリスクファクターを明らかにし、発症機序を考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
寝具に付着したヤケヒョウヒダニアレルゲンタンパクDer_f_1とDer_p_1を測定する蛍光ELISA法の構築のため、これらの組み換えタンパクを合成後、ウサギおよびマウスに免疫し、ヤケヒョウヒダニポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体を作製する実験計画である。 平成27年度中に組み換えタンパク合成を完了し、ウサギおよびマウス免疫の委託外注を行う予定とし、そのための外注費用を確保していたが、組み換えタンパク合成が平成27年度中に完了せず、平成28年度中に発注となった。また、この外注に係る実験消耗品の発注も平成28年度に持ち越しとなった。そのため次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
アレルゲンタンパクDer_f_1とDer_p_1の十分量の合成が完了したので、ウサギ免疫およびポリクローナル抗体精製およびマウス免疫後モノクローナル抗体精製を企業に委託する。この外注費用として使用する計画である。また、この外注に係る実験消耗品の発注を行う。
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