アトピー性皮膚炎など難治性の痒みには抗ヒスタミン薬が奏功しない。このことから、難治性痒みの発生機序にはヒスタミン以外の起痒因子の関与が考えられる。このような難治性痒みを伴う疾患には共通して皮膚の乾燥(ドライスキン)が認められることから、ドライスキンの痒みの発生機序は、難治性痒みの発生機序の理解につながると考えられた。 生体の内部環境を規定する因子には、酸塩基平衡(pH)、体温、浸透圧などがあり、これらの破綻は生命を脅かす様々な疾患の引き金となる。近年、皮膚のpHや体温の変動と難治性痒みとの関連が研究され、これらが痒みの発生機序に関与することが示唆される。ドライスキンでは、皮膚バリアの脆弱化、もしくは破綻に起因して、体の内部と外部の水分移動が容易になることから、表皮内浸透圧環境が変動すると考えられる。しかしながら、これまで表皮内浸透圧の変動と痒みの発生に着目した報告はない。 本研究において申請者は、アセトン・ジエチルエーテル混合溶液(AE)と水処理(W)の反復によって作製したAEWドライスキンモデルマウスの皮膚を解析し、その表皮において皮膚バリア機能関連タンパク(フィラグリン、神経伸長因子、セマフォリン3Aなど)や浸透圧関連タンパク(タウリントランスポーターなど)の発現が変動していることを明らかにした。興味深いことに、皮膚バリア機能関連タンパク発現は、培養ヒト表皮ケラチノサイト(NHEK)を用いた浸透圧刺激実験において、浸透圧関連タンパク発現とともに変動が認められ、動物実験の結果と合わせると、ドライスキンモデルマウスの表皮において浸透圧環境の変動が起こっていることが示唆された。一方で、ドライスキンの表皮において、具体的にどの程度の浸透圧変動が起こっているかなど不明な点は多く、今後より詳細な検討が必要である。
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