研究課題/領域番号 |
15K19198
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
伊藤 謙吾 東北大学, 大学病院, 助手 (40705076)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 定量的磁化率マッピング / 磁気共鳴断層撮像装置 / X線断層撮像装置 |
研究実績の概要 |
本研究では,磁気共鳴断層撮像装置で撮像されたMRI画像から算出される磁化率分布を放射線治療に応用することである.現状の放射線治療のシステムでは,放射線治療計画を行う際にX線断層装置で撮像したCT画像を用いている.CT画像を取得するには放射線被ばくを伴うが,本研究で提案する方法が確立することで被ばくを伴うことなく,放射線治療計画を立案することが可能となる.本研究で提案する方法では,近年新たに定量評価することが可能となった磁化率を使用する.磁化率は物質に固有のパラメータとなっていることから,磁化率を測定することで被写体を構成する物質を定義することが可能となる.磁化率の算出は,MRI画像を用いて逐次近似画像再構成を行うことで推定することができる.平成27年度は,この逐次近似画像再構成アルゴリズムである定量的磁化率マッピング (QSM) のプログラムの開発及びシミュレーション,実測を用いたプログラムの検証を行った.QSMアルゴリズムの開発には当初の予定よりも時間を有したが,シミュレーション,実測を用いた検証は順調に終了した. 当初は,構成元素,水に対する相対電子濃度 (rED),物理密度といったパラメータが既知となっている試料を撮像し,磁化率-rED,磁化率-実効原子番号変換テーブルの作成を計画していた.当院の実臨床で使用しているCT値-電子濃度変換テーブル作成用試料を用いてMRI画像の取得を計画していたが,MRIに対応している試料が少ないことから,計画の変更が必要となった. 今後は新たな方法を提案し,検証及び臨床への応用の可能性を検討していく.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成27年度中は,MRI画像から磁化率を推定するアルゴリズムである定量的磁化率マッピング (QSM) のプログラムの開発及び開発プログラムの検証を主に行った.QSMを行うには,QSMアルゴリズム以外にも位相巻き戻しを用いた磁場分布の算出,被写体外からの磁場への影響を除くBack Ground Field Removalといった処理が必要となり,その1つ1つを自作する必要がある.当初は,平成27年度中に構成元素,水に対する電子濃度 (rED),物理密度が既知となっている試料をMRI撮像し,磁化率-電子濃度もしくは磁化率-実効原子番号といった変換テーブルを作成する計画であった.しかし,QSMやQSMを行うために必要となるいくつかのアルゴリズム開発に時間を要したことや実測に使用する予定だったMRI装置の故障といった事象が生じたため,当初の計画よりも遅れが生じた. また,当院実臨床で使用しているCT値-電子濃度変換テーブル作成用試料を用いることで磁化率-電子濃度,磁化率-実効原子番号といった変換テーブルを作成する予定であったが,MRIに対応した試料が少ないことから,当初の予定とは異なる方法を用いて磁化率から各種パラメータを推定する必要が生じた.
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度中は,新たな方法を用いることで磁化率分布の放射線治療への応用を試みる.定量的磁化率マッピング (QSM) で算出される磁化率は,ボクセル中の鉄分の含有量によって変化することが報告されている.これを応用し,各ボクセルが水と鉄もしくは水と骨といった2種類の物質から構成されていると仮定し,ボクセルごとに線源弱係数を割り当てる方法の提案及び検証を行う. 鉄分の含有量と磁化率の関係に関しては,脳組織のいくつかの領域においてすでに定量評価されており,鉄分の含有量が増加することで磁化率の値は正の方向へ増加すると報告されている.また,骨の磁化率については負の磁化率を有していると報告されている.この関係を用いることで磁化率分布の各ボクセルにおいて,負のピクセル値を有したボクセルは水と骨,正のピクセル値を有したボクセルは水と鉄分といった2種類の物質から構成されていると仮定することができる.水と骨,鉄分のそれぞれに磁化率から算出される重みづけ係数を乗じることで各物質の割合を適切に調節することができるようになる. 本研究の最終目的は,磁化率分布を放射線治療に応用できるかを検討することである.従来から用いられているCT画像を用いた方法と本研究の提案方法を用いた場合で,算出される線量分布の差を明らかにする必要がある.当初の計画では,当院に設置されちる治療計画装置を用いて線量計算を行う予定であった.しかし,提案方法を線量計算に反映させるためには治療計画装置に実装されているアルゴリズムでは不十分であり,モンテカルロシミュレーションを用いた自作線量計算システムを新たに開発する必要がある.平成28年度は,これらを踏まえ,モンテカルロシミュレーションを用いた線量計算システムと磁化率分布からボクセルごとに構成元素を定義するアルゴリズムの構築を行う計画である.
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次年度使用額が生じた理由 |
定量的磁化率マッピングを行う自作アルゴリズムの実測を用いた検証が当初の計画よりも順調に終了した.検証にはMRI用造影剤を水で希釈した自作ファントムを使用したが,予定よりも少ない実測回数で終了し,造影剤の購入数が予定数よりも少なく済んだため次年度使用額が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
翌年度では,今年度明らかにした内容に関してアメリカで開催される国際学会で報告する予定である.また,検証用ファントムとして3Dプリンターを用いたオーダーメイドファントムを発注する計画である.このファントムは,高精度であるだけでなく人体を模擬しているため複雑な構造を有しており製作には高額な経費が必要となるが,検証には必要不可欠な物品である.
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