研究課題/領域番号 |
15K19202
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
藤井 啓輔 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (40469937)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 医療被ばく / 放射線防護 / 臓器線量 |
研究実績の概要 |
本研究では、線量および画質評価に基づいて体幹部CT検査における体型に適した撮影条件を検討することを目的としている。今年度は、成人および小児体型を模擬したファントムを用いて、シミュレーション計算によりCT検査時の被ばく線量を評価し、その計算精度を検証した。線量シミュレーションを行うため、まずは、CT装置のX線の線質(X線スペクトルおよびBow-tieフィルタ)を実測に基づいて推定した。CT装置に関するデータ、人体ファントムのCT画像データおよび撮影条件をシミュレーション計算ソフトウェア(ImpactMC)に入力して、シミュレーション計算を行い、出力された線量分布画像からファントムの各臓器位置における臓器線量を評価した。一方、人体ファントムと蛍光ガラス線量計を用いて、実測に基づいて各臓器の臓器線量を評価した。撮影範囲内の臓器の線量について、シミュレーションによる評価値と実測による評価値の相対誤差は、13%以内で一致しており、シミュレーションの精度は良いと考えられた。また、近年のCT検査では、被検者の体厚に応じて管電流を自動的に調整する自動露出制御機構(Automatic Exposure Control: AEC)が日常的に用いられている。AEC使用時の線量を評価するには、CT検査時の各X線投影角度に対する管電流値を把握する必要がある。しかし、その管電流値を直接入手することは困難であるため、本研究では、AEC作動時の各X線投影角度と管電流の関係式を推定した。推定した管電流およびその他の撮影条件等をソフトウェアに入力して、シミュレーションを行い、成人ファントムの各臓器位置における臓器線量を評価した。この値と実測に基づいて評価した臓器線量の相対誤差は、管電流一定時のシミュレーション値と実測値の相対誤差と同程度であり、AEC作動時の管電流の推定精度も良いと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度においては、成人および小児体型を模擬した人体ファントムを用いて、シミュレーション計算により体幹部CT検査時の被ばく線量を評価し、その計算精度を検証することで、被検者の被ばく線量をシミュレーションにより推定する環境を整えることを目的としている。そこで、本研究では、線量シミュレーションを行うために必要なCT装置のX線の線質(X線スペクトルおよびBow-tieフィルタ形状)を実測に基づいて推定した。また、CT検査時に日常的に用いられているAEC作動時の管電流値は公開されておらず、管電流データを直接入手することは困難であるため、各X線投影角度に対する管電流を求めるための推定式を考案した。CT装置に関するデータ、人体ファントムのCT画像データおよび撮影条件等を線量シミュレーション計算ソフトウェアに入力して、シミュレーション計算を行い、出力された線量分布画像を用いてファントムの各臓器位置における臓器線量を評価した。また、X線の線質および各投影角度における管電流データの推定精度を検証するため、シミュレーションにより評価した線量値を、人体ファントムと蛍光ガラス線量計を用いた実測に基づいて評価した臓器線量と比較した結果、両者の線量値の相対誤差は13%以内で一致しており、線量シミュレーションの精度は良いと考えられた。従って、線量シミュレーションにより、被検者のCT画像を用いて、各被検者に対する各臓器の臓器線量を評価するための環境は整いつつあるため、当初の計画通り、本研究は順調に進展していると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策について、本研究では、成人の標準的体型サイズを模擬し、形状および濃度が異なる模擬腫瘤を封入したトラック型低コントラスト評価用ファントムの作成を予定している。初めに、過去に体幹部CTを受診した患者の画像を用いて患者のサイズ(縦径、横径、周囲長、面積等)および各臓器のCT値を年齢別に解析し、ファントムのサイズおよびベース濃度を決定する。また、ファントムのベース領域には、診断用X線エネルギーに対して人体軟組織と等価な材質を用い、さらに、ファントム内には、低コントラスト分解能評価用の模擬腫瘤(サイズ:2-10mm、CT値:ファントムのベース領域のCT値よりも3-10(HU)程度高いもの)を設置する予定である。各模擬腫瘤に関する画質評価指標と線量の関係性を正確に評価するため、複数のスライス面内に腫瘤のサイズおよびCT値が異なる模擬腫瘤を設置する。さらに、作成した低コントラスト評価用ファントムを用いて、線量測定も行えるように、ファントム内にCT用電離箱線量計や小型の蛍光ガラス線量計を挿入できる穿孔を設置する予定である。次に、臨床現場で日常的に使用されているCT装置を用いて、管電圧、管電流、ピッチファクタ、ビーム幅等の撮影条件および作成したファントムをスキャンする。得られたCT画像に対して、統計学的ノイズ評価法、コントラスト-ノイズ比(CNR)解析法等を用いて、画像ノイズ、低コントラスト分解能等を評価する。また、シミュレーション計算および実測に基づいて低コントラスト評価用ファントム内の線量分布を評価し、ファントム内の各模擬腫瘤位置での線量と画質の関係性を評価する。画質および線量評価に基づいて体幹部CT検査における体型に適した撮影条件を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度購入した線量シミュレーションソフトウェアについて、僅かではあるが、当初の予定額より安く購入でき、また、このソフトウェアを用いて効率的に研究を行った結果、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度以降の研究遂行において、CT画像データを保存するために必要なCD-ROMや測定実験で使用する養生テープ等の消耗品の購入に使用する予定である。
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