研究実績の概要 |
本研究の目的は,エネルギーや角度の依存性が少ないウエアラブル線量計を開発し,臨床条件における医療被曝の実測を可能とするシステムを整備することである. 線量計の性能を評価するためには,線量が既知のX線を用いて線量計の応答を評価する必要がある.本研究では,効率的に照射体系を決定するためにシミュレーションコードEGS5を用いて評価を行った.その結果,診断で用いる40~140 kVのX線では非常に狭い照射野を設定しても適切な測定結果を得られることを確認した. 次に米国にて実用化された小型のOSL線量計(nanoDotOSL線量計)を用いた実験を行い,診断用X線撮影装置を用いて,角度依存性の測定手法の開発,エネルギー依存性の測定手法の開発を行った.角度依存性の実験においては,診断用X線撮影装置に附置されている可動絞りからの散乱X線が大きな影響を与えることが明らかになり,それらを除去するための装置を開発することで,これらの問題点を適切に解決した.また,エネルギー依存性の実験では金属試料を照射した際に放出される特性X線を用いて,単一のエネルギーでの評価手法を新たに開発し,実用化されているOSL線量計を用いて実験を行った.実験結果とシミュレーションによる評価が一致していたため,本手法が適切であると評価した. 得られた知見については,学会発表や学術雑誌等に発表を行い,知的共有財産として世間に広く公表を行っている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,シミュレーション及び実験の二本立てで行っている.以下に,それぞれの進捗状況を述べる.
OSL線量計の詳細な構成を調査し,シミュレーションコード内に線量計を再現する環境を整備することができた.そして,既に商品化されているnanoDotOSL線量計を用いて,実測データとシミュレーション値が良く一致することを確認した.一方で,時間的な制約もあり,新しく設計する線量計の詳細なパラメータ計算を行うには至っていない.これらの計算は,本研究の最も大切なポイントの一つとなるため,慎重に行いたい.
実験系としては,診断用のX線撮影装置を用いた実験を行い,角度依存性およびエネルギー依存性の評価手法を独自に開発し,それぞれの手法を確立することができた.これらの結果に関しては,学会発表及び論文投稿を通して,成果を公開する予定である.
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今後の研究の推進方策 |
新しい線量計の設計パラメータを,シミュレーションコードEGS5を用いて系統的に調査する.このとき,角度依存性及びエネルギー依存性に着目し,臨床条件でOSL線量計を使用した際に適切な設計パラメータを明らかにする.次に,実際に線量計を試作する.OSL線量計の構成素子は酸化アルミニウムであり,専用の粉末を米国ランダウア社で制作している.これらの粉末を入手し,試作品の製作を行いたい.試作した線量計の角度依存性及びエネルギー依存性をこれまでに確立してきた実験方法で評価する. 試作品のOSL線量計が設計通りに製作できないことも想定される.この場合は,市販品であるnanoDotOSL線量計を本研究の目的である「医療被ばく線量の実測」に適用可能であるかどうかを検討し,理想状態との差異を検証することで精度を明らかにしたい.さらに,診断領域のX線だけでなくCT(Computed Tomography)検査についても,OSL線量計がどの程度適用可能かどうかを検証する予定である.
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