研究課題/領域番号 |
15K19213
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研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
松原 礼明 東京女子医科大学, 医学部, 助教 (10598288)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 小型線量計 / シンチレータ / 蛍光波長 / ヨウ化ナトリウム / 重粒子線治療 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は重粒子線治療に特化した生体内に挿入可能な小型線量計を開発することである。LET応答の異なる複数のシンチレータ結晶を使用し、光ファイバーを通して生体外へ信号を出し、蛍光波長分布の違いから各シンチレータの応答を弁別して消光効果(クエンチング)による精度劣化を補償する機構である。
本年度は研究の第一歩ということでシンチレータ各種の波長分布とそのLET依存性を網羅的に調査した。前年度中に放射線医学総合研究所HIMACのマシンタイムを獲得していたため平成27年度に入ってすぐに4He, 12C, 40Arの重イオン線を照射する機会を得て、LET依存性と蛍光波長分布のデータを取得した。無機シンチレータにおいてLETに依存して蛍光波長分布の形がわずかに変化することを確認したが、この変化からLET情報に焼き直すには精度が不十分であると判断した。一方NaIの結晶に関しては、予想外に蛍光波長分布の形が変化することを確認した。当初はNaIの蛍光波長分布がLETに劇的に依存する可能性が疑われたが、異動先の東京女子医科大学のリニアックからの高エネルギーX線を照射することでこの可能性は否定された。次にNaI結晶の吸湿性による結晶劣化が疑われ、新鮮な結晶を購入し高エネルギーX線を用いて比較したところ、この劣化により波長分布が変化しその発光量が40%近く減少することを確認した。しかしながら、もしもNaI結晶の吸湿によりここまで発光量が減るのであれば大問題であることから、現在はNaI結晶を潮解から防ぐために密閉に使用している窓ガラスが重イオンによる大線量で劣化して着色したことが原因であると考えている。この点も含めて平成28年度のHIMACマシンタイムで調査する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度より放射線医学総合研究所HIMACのマシンタイムを獲得していたため、シンチレータ結晶各種の波長分布とLET依存性のデータをスムーズに取得することができた。平成27年度中は研究代表者の所属が異動したことにより高エネルギーX線出力装置が気軽に使える環境になったおかげで、想定以上のデータが取得でき、また異動先で知り合った研究者から新素材のシンチレータ情報を得て網羅的調査の一つに含めるなど当初の想定以上の進展があった。その一方、異動による職務の変化等によって研究時間の確保が難しくなったこと、また研究実績の項で述べたようにNaIに劇的な波長分布変化が観測されたことから、もしもこの変化が本質的なものであれば本研究が大きく進展する可能性があったため27年度後半はその確認と原因究明に念入りな追加実験と調査を行った。その結果、当初予定していたシミュレーション計算と使用する結晶の選定ができず、プロトタイプ設計まで進展できなかった。よって27年度中に購入予定だったいくつかの備品と消耗品が未購入となった。NaIに関する詳細な調査は結果的には本研究には繋がらず遠回りとなったが、必要な調査であったと考えている。 以上より想定以上に進んだ部分と進まなかった部分はあるが、全体としては順調に進んでいると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の方針は1)シミュレーション計算と共に結晶と波長領域の最適な組合せを選定する、2)プロトタイプ線量計を設計する、3)プロトタイプの性能評価をする、である。以下で具体的に述べる:1)27年度中に得たデータを基に、発光量と波長分布そしてシミュレーション計算によるLET応答性を考慮して最も信号雑音比の良い組合せを選ぶ。;2)波長領域を考慮して適切な増幅器(光電子増倍管か、MPPCか、等)を選定し、プロトタイプ線量計を設計し、業者に製作依頼をする。;3)放射線医学総合研究所のHIMACのビームタイムを申請し、線形性、精度、大線量耐久性等を調査し、線量計としての性能を評価する。 今年度はプロトタイプ制作のための設計費、製作費と、27年度に購入予定であった信号用の増幅器と高電圧電源を購入する。また成果発表と情報収集のため国際会議(PTCOG55)に参加するために旅費が必要である。最後に今年度中に成果をまとめて雑誌投稿につなげる。
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次年度使用額が生じた理由 |
NaIに関しては、蛍光の波長分布の形が予想外に大きく変化をすることを観測したが、もしもこの変化がNaI結晶に由来するLET依存性であれば本研究が大きく進展する可能性があったため、今年度後半はこの点を重点的に調査した。このため開発するプロトタイプ線量計に使用する結晶と波長領域の組合せが決定できず、プロトタイプの設計に取り掛かれなかった。それに伴い、使用すべき信号増幅器やそのための(高)電圧電源の仕様が定まらず、平成27年度中にこれらの物品と波長フィルタ等の小物類が購入できずに残高が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度はプロトタイプ制作のための設計費、製作費と、27年度に購入予定であった信号用の増幅器と高電圧電源を購入する。また成果発表と情報収集のため国際会議(PTCOG55)に参加するために旅費が必要である。
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