高エネルギー陽子線を用いたがん治療の良し悪しは、体内での陽子線の停止位置(飛程)を精度よく制御できるかに強く依存する。本件の目的は、陽子線治療計画における飛程誤差要因をつぶさに見直すことで治療の高精度化に資することである。特に、患者のCT画像から患者内の阻止能比分布を求める変換処理をテーラーメード化することで、この変換に起因する飛程誤差を軽減するための汎用的なアルゴリズムの開発を目指す。 阻止能比は陽子線のエネルギーに依存するが、一般的な治療計画装置では、ある固定エネルギーを仮定して阻止能比を決定しており、飛程誤差の一つの要因となっている。そこで、飛程誤差を軽減するため、まず、阻止能比の計算で仮定するべき陽子線の最適なエネルギーを決定した。ICRPの人体数値ファントムを用い、エネルギー依存性を無視することで生じる阻止能比の誤差を見積もり、その誤差を最小にする陽子線のエネルギーが70 MeVであることを明らかにした。この結果は、原著論文としてまとめ英文誌PMBに掲載された。 次に、任意の被写体のCT画像が作成可能なシミュレーション体系を構築した。タングステン標的・アルミフィルターからなるX線発生装置から管電圧120 kVpの連続X線を発生させ、反応断面積データをもとに被写体内のX線の減弱を計算し、ラドン変換によりプロジェクション像を作成する。これをFBPにより再構成することで被写体のCT画像を得る。構築した体系を用い、CT値校正用ファントムのサイズの違いが体内の阻止能比に及ぼす誤差を見積もった。誤差は当初想定していたよりも小さいことが明らかになった。この結果については、原著論文としてまとめ英文誌PMBに投稿中である。 上記シミュレーション結果を踏まえ、CT値から阻止能比への変換テーブルを構築するためのCT値校正用ファントムを作成しCT撮影実験を行った。
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