申請者は、遺伝子発現ネットワーク解析と、遺伝子発現・DNAメチル化・SNP情報の統合解析により、後天的ゲノム修飾が血中アディポネクチン濃度に如何なる影響を与えて最終的に疾患発症に至るのか、アディポネクチン発現パスウェイの調査・解明を目的とする。 最初に、申請者は7種類のデータセットを基に個々のデータセットに対してネットワーク構築を行い、複数のデータセットを通して検出できるADIPOQモジュール遺伝子の探索を行い、ADIPOQ遺伝子発現量と有意(p < 0.05)な関連のある30種類のアディポネクチンモジュールを同定した。最も強い関連を示したモジュールは、small molecule metabolic processの遺伝子オントロジーを持つ遺伝子群が有意に存在していた。 続いて公開されている脂肪細胞のADIPOQ発現量とDNAメチル化データ及び、我々の保有する血中アディポネクチン濃度と血球のDNAメチル化データを統合解析した所、上記で同定したアディポネクチンモジュールを構成する遺伝子の内、5種類の遺伝子の近傍に位置するDNAメチル化がADIPOQ発現量及びアディポネクチン血中濃度と有意な関連を示した。これらのDNAメチル化サイトは、アディポネクチンの分泌異常を引き起こす原因解明の一助になると期待できる。 また、アディポネクチンの分泌異常がリスク因子となる疾患、心筋梗塞に着目した研究についても上記と平行して進め、心筋梗塞とゲノムワイド有意水準(P<1.43x10の-7乗)に到達したDNAメチル化サイトの同定に成功し、更にこれらのDNAメチル化サイトが、既報の心筋梗塞の関連遺伝子近傍に存在することを同定した。 以上の成果は、基づくアディポネクチンをはじめとするアディポサイトカインの分泌異常から、生活習慣病発症に至るまでのエピジェネティクスの関与を理解するための重要な情報となり得る。
|