本研究では、全国最大規模の救急搬送データベースをもとに、GIS(地理情報システム)を用いて、救急隊管轄地区ごとに不搬送事案が、他の重症患者の現場到着や病院到着時間に与える影響を推定する。さらに、救急搬送後の予後データを用いて、現場到着や病院到着時間と予後の関係を推定し、不搬送事案が、他の重傷患者の死亡率や入院継続率に与える影響を明らかにすることである。昨年度整備した大阪市消防局から提供された救急搬送データと救急隊の位置情報をもとに今年度は以下の分析を実施した。 ①大阪市内における理論的な救急隊管轄地区を算出した。GISを用いて市内の各救急隊が最短時間で到達できるエリア(救急隊管轄地区)を125mメッシュごとに求めて、不搬送分析の算出エリアとして定義した。 ②重症患者に影響を与えたと推測される不搬送事案を抽出した。大阪市内で全不搬送事案を抽出した。具体的には、1)市内救急隊管轄地区で発生した救急覚知の抽出。2)管轄地区内での管轄外の救急隊以外から出動した重症・中等症の覚知の抽出、3)管轄地区内の救急隊から出発した不搬送(拒否・酩酊・誤報・傷病者無)の覚知の抽出、以上の情報を抽出、集計した。 ③抽出した搬送情報から、「不搬送事案の帰署時刻>=重中等症の覚知時刻のケース」 と、「不搬送事案の引揚時刻>=重中等症の覚知時刻のケース」を本研究が定義する不搬送事案として取扱い各種統計量を算出した。 以上の分析内容に対して、救急医学の専門家と分析手法の妥当性について議論を実施した。
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