申請者らはこれまで日々の食事を介した認知症の予防を目指し、特に脂肪酸摂取に着目した解析から、数種の脂肪酸に認知機能低下を抑制する効果があることを見いだした。本研究では18年間にわたって追跡された地域住民コホート(NILS-LSA)データから、インスリン抵抗性や炎症を介して増悪する認知機能低下を脂肪酸摂取が抑制するのかを明らかにすることを目的とした。 平成29年度は、研究開始時の計画通り、糖代謝(もしくは肥満度)と知能得点との関連に対する脂肪酸摂取量、血中脂肪酸の影響を検討した。具体的には、知能得点の中でも情報処理速度に着目し、①糖代謝指標と知能得点の有意な関連性に、脂肪酸摂取が交絡しているかと、②脂肪酸摂取量や血清脂肪酸濃度は、糖代謝指標と独立して、知能得点の変化に影響するかを検討した。その結果、①糖代謝指標と知能得点の有意な関連性は、脂肪酸摂取を考慮しても変わらなかった。また②飽和・一価不飽和脂肪酸の摂取量や血中濃度重量比が高いほど、各種糖代謝指標と独立して、符号得点は低下した。しかし、これらの関連性は、年齢群で層化すると認められなかった。 3年間の解析結果をまとめると①炎症状態よりも、糖代謝レベル(特にヘモグロビンA1c濃度や血糖が高値であること)が知能得点の低下と強く関連した。また②脂肪酸摂取や血中脂肪酸濃度は、インスリン抵抗性や炎症を介して増悪する認知機能低下を抑制しなかった。また、③糖代謝や肥満と知能・認知機能得点の関連には、脂肪酸や血中脂肪酸濃度ではなく、身体活動量や喫煙習慣、高血圧や脳卒中既往の有無が強く交絡していた。 本研究からは、脂肪酸摂取によりインスリン抵抗性や炎症を介して増悪する認知機能低下を抑制することは難しい可能性と、一方で、高血圧や脳卒中予防、糖代謝、肥満予防に資する適切な栄養(脂肪酸)摂取が認知症予防に対し、非常に重要であることが示唆された。
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