研究課題/領域番号 |
15K19261
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
高橋 弘毅 大阪大学, 医学部附属病院, 医員 (30609590)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 院内感染対策 / POT法 / 積極的監視培養 / MRSA |
研究実績の概要 |
当センターでは入院時と週1回の鼻腔・痰・尿の監視培養を導入しMRSAの監視に努め、積極的監視培養のもと48時間以降に検出されたMRSAを院内感染と定義(従来法)している。MRSA感染対策として院内伝播のリスクファクターを検討し、接触感染予防対策を徹底することでMRSAの院内感染率を低下させてきが背景がある。この従来法にMRSAの遺伝子型を同定することのできる新しい分子疫学検査、POT法を加えることで院内感染の現状を明らかにした。以下に27年度の成果を述べる。 ①27年度に当センターへ入院となった全患者を対象とし、1015名のうちMRSA陽性者57名を同定した。②従来法によって、57名中35名が「持ち込み」と診断し、57名中22名が「院内感染」と診断した。③従来法にPOT法を加えることで「院内感染」の22名のうち11名からPOT番号の重複するMRSAが検出された。院内感染の残りの11名からは番号の一致しないそれぞれが異なる番号を検出した。このように、患者から検出されたMRSAを研究者が受け取り検討できる体制を構築した。④年度後半にはMRSAを長期保存する行程を確立し、今後の追加遺伝子検査や毒素産生能などの検討に応用できる体制を構築した。⑤医療従事者の鼻腔から検体を採取しMRSAを同定する行程を確立した。⑥を医療従事者から検出されたMRSAと患者から検出されたMRSAに同じPOT番号があることを同定した。 以上より、従来法によって「院内感染」と診断されるMRSAの検出頻度は少ない(2症例/月以下)であるが、POT法を加えることで院内感染の存在をより詳細に明らかにするに成功した。また医療従事者から同じPOT番号のMRSAが検出されたことから、患者だけでなく医療従事者を含めたセンター全体での感染対策が必要であることが明らかとなり、次年度の課題とされた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
病棟患者から検出されたMRSAを微生物検査室から提供を受け、研究者が保存しPOT法を加えて評価を行う手順を確立することができた。 医療従事者に保菌調査の必要性とPOT法について繰り返し説明会を行い、今後の取り組みについての周知徹底に半年間の時間を要した。また、大阪大学倫理審査委員会での承認を得て、医療従事者各個人から同意書を得ることで研究はスタートされた。検体は個人番号により匿名化され、個人が特定されないかたちで行われ、保菌状況は個人情報として取り扱った。 医療従事者の MRSAスクリーニング検査はリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)によって行われる予定であったが試薬の製造中止に伴い中止となった。代わりにシードスワグMRSA(栄研)を用いることで代用することができた。 開始までの時間を要し、MRSAの同定方法が研究当初と異なっているが、概ね順調に研究は進展している。
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今後の研究の推進方策 |
患者から検出されたMRSAのPOT番号を開示することで、病棟に存在する感染対策チームと協議を重ね、今後の感染対策を構想する。POT法導入前後での手袋やガウン着用、手指消毒薬の使用量などの感染予防遵守率、MRSAの検出率、抗MRSA薬の使用量の変化、分子疫学検査による院内感染状況の変化についての情報を集積し、過去のデータと比較し効果判定を行う予定である。 平成27年度の研究により、医療従事者の保菌するMRSAと患者のMRSAとで一致する遺伝子型が存在することが明らかとなった。これは医療従事者の保菌するMRSAが患者に伝播した可能性が疑わる結果であった。しかし今回の研究は、MRSAを保菌する医療従事者を特定できないかたちで行われているため、鼻腔の除菌などの介入は行うことができない。MRSAを保菌する医療従事者に除菌や職場への立ち入り制限を行うことは推奨されておらず、今後どのように介入していくかは大きな検討課題の一つである。まずは本データを医療従事者と共有することで、接触感染予防の意識向上に繋げていく可能性を検討する。 一連の研究で保存してきたMRSAに対しPOT法以外の分子疫学検査による再評価を検討している。これによりPOT法の精度も再検討する。また、毒素産生能などを評価することで病原性の高いMRSAを同定し、感染対策や治療方針に影響を与える研究となり得るように評価を継続する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
MRSAスクリーニング検査はリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)によって行われる予定であったが試薬の製造中止に伴い施行できなくなった。代わりにシードスワグMRSA(栄研)を用いることで代用することで当初計画していた実験と実際の内容にに差異が生じた。POT法以外の分子疫学検査など高額の検査を平成27年度に行うことができず、平成28年度に全て持ち越しになるなど実際の進捗の状況に差異が生じたため、平成27年度、必要となると予想していた経費の一部を今後の段階で使用することが必要となったため。
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次年度使用額の使用計画 |
当初予定していた使用額とは異なったが、次年度施行される分子疫学検査とあわせ、今年度使用予定の研究計画とともに当初予定通りの計画を進めていく。
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