本研究の目的は死後撮影CTを用いて,眼球近位部の視神経鞘出血が診断可能かどうかを明らかにすることである. 期間中に腐敗や焼死を除く152例の症例を経験した.年齢は0歳から95歳(中央値69歳),男性95例,女性56例であった. そのうち,眼底出血などの眼異常所見を認めた14例について眼病理検査を行った.眼病理検査で視神経鞘出血を確認できた症例は4例あった.そのうちCTで視神経鞘出血を疑えた症例は1例あった.また,CTで視神経鞘出血を疑ったが,実際には出血を確認できなかった症例が1例あった.これは視神経鞘周囲のうっ血であったと判断され,CTのみでの視神経鞘出血の特定は困難であると考えられた. 今回,我々が確認した視神経鞘出血は成人3例,新生児1例で,何れの死因も頭部外傷であった.それらの頭部外傷の成傷機転を検討すると,後方転倒や揺さぶりなどにより後頭部を打撲したものであった.一方,眼病理検査で視神経鞘出血のなかった頭部外傷の症例の成傷機転を確認すると,前方転倒や側方転倒の症例であった.視神経鞘出血を生じていた症例の死因,頭部外傷の成傷機転および視神経鞘出血の出血源について考察すると,視神経鞘出血は,暴力的な揺さぶりによる回転加速度のみならず,後方への直線加速度によって,視神経が後方に牽引され,眼窩に固定されている眼球との接合部にストレスがかかり,Zinn-Haller動脈輪が破綻して動脈性出血が生じているものと考えられた.
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