本年度は危険ドラッグ使用中の突然死10事例及びメタンフェタミン使用中の突然死10事例、コントロールとして心筋症状及びLQTS歴のない100事例の心臓血及び心筋組織を用いて、KCNQ1及びKCNH2の2つの遺伝子の増幅及びシークエンス解析を行った。その結果、危険ドラッグ使用中の突然死事例において、メタンフェタミン使用中の突然死及びコントロール群と比べ優位にG643S多型が検出された。また、G643S保有者では、特にα-PVPを含む合成カチノンが検出される事例が多かった。 近年危険ドラッグ使用者の解剖事例が増えてきている。しかしながら危険ドラッグは未だ薬物の構造、検出法、作用機序や中毒症状が不明であるものが多い。本研究では、最終目的である危険ドラッグ使用中のマーカー検索までは行えなかった。しかしながら、危険ドラッグ使用中の突然死事例にてLQT1のG643S変異が有意に多く検出されたが、G643Sと各種薬物それぞれの関係性は不明なままであった。しかし、危険ドラッグ同様にQT延長作用をもつメタンフェタミン使用事例と比較し、危険ドラッグ使用中の突然死グループ、特にαPVPを含む合成カチノン系薬物にて有意にG643Sが検出された。よって先天的QT延長症候群の原因遺伝子のうち、特にLQT1のG643S変異を持つ人では危険ドラッグ、特に、合成カチノンの使用にて、重篤な不整脈が誘発され、それが死因に関与する可能性が示された。今後、各危険ドラッグの中毒域や中毒作用の検討、また、他のLQT遺伝子の解析が、これらの可能性を探るために必要である。
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