研究課題/領域番号 |
15K19270
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
奈良 明奈 千葉大学, 医学(系)研究科(研究院), 特任助教 (50722576)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 横紋筋融解症 / 腎機能障害 / ミオグロビン / 脂質過酸化 / 炎症性サイトカイン |
研究実績の概要 |
横紋筋融解症は骨格筋が融解・壊死し、筋細胞内のmyoglobin(Mb)が血中に漏出されることで、腎尿細管が閉塞され腎不全を来す。横紋筋融解症を引き起こす要因には、熱中症、挫滅症候群や高脂血症用薬の副作用等がある。横紋筋融解症の発症に脂質過酸化による尿細管障害が寄与していることが知られているが、病態発症後短時間内での脂質過酸化に関する研究報告は少ない。そこで本研究は横紋筋融解症発症ラットモデルを用い、病態発症後短時間での脂質過酸化及び細胞内分子の変化について検討を行った。 実験動物には雄の7週齢SDラットを供した。横紋筋融解症発症群は、生理食塩水に溶かした50%glycerolを筋肉内投与し、対照群は同量の生理食塩水を投与した。Glycerol投与1,3時間後の腎臓・尿は、対照群と比較し著明な変化を認めた。血清中BUN、CRE、LDH、CPK値は、glycerol群は1時間後より有意な上昇が認められ、3時間後は更に上昇した。次に腎実質内の脂質過酸化の動向を、脂質過酸化損傷マーカーのNε-(Hexanoyl) Lysine(HEL)及び4-hydroxy-2-nonenal(4-HNE)を用いて確認した結果、glycerol投与1時間後は有意な変化は認められず、3時間後に有意な上昇が認められた。また脂質過酸化に寄与することが知られているperoxynitriteを評価するためNO産生量及び iNOSの発現を調べたところ、glycerol投与1時間後よりともに有意に増えていた。一方、横紋筋融解症に伴う急性腎不全にはIL-6やTNF-αといった炎症性サイトカインによる炎症反応も寄与していることが知られているが、これらの発現はglycerol投与1時間後より有意に上昇していた。 以上より、glycerol投与1時間後は炎症反応による急性腎不全が起こっており、脂質過酸化は3時間後より認められたため、脂質過酸化はそれが起因となって腎障害を引き起こすというよりは既に起こっている病態を悪化させている可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画では、横紋筋融解症発症モデル群と対照群の2群間において、細胞膜の構成成分であるリン脂質の過酸化反応について検討するため、腎臓のホモジネートから細胞膜画分のみの抽出を行い、脂質酸化損傷マーカーを用いて、病態群及び対照群における挙動変化の検討を行う予定であった。しかしながら、病態発症直後より腎実質内での変化が著明に認められ、尿の肉眼的変化も極めて顕著であったことから、glycerol投与1、3時間後の細胞内脂質過酸化の動向に着目して研究を遂行することとなった。また計画では、細胞膜画分より得られたリン脂質及び脂質構成脂肪酸の抽出及び脂肪酸組成解析に関しても行う予定であったが、本年度は病態発症群を作製後、腎組織・腎細胞内の脂質過酸化の挙動について、ウエスタンブロッティング法や免疫染色法による検討を行うまでとなった。 しかしながら、本年度の得られた結果は、現在までに報告されていない新たな知見が数多く得られた。そのため、その研究成果については来年度内に学術論文として国際雑誌に投稿して発表することとした。
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今後の研究の推進方策 |
本年度得られた研究結果に関して、Glycerol投与1時間後では脂質過酸化反応が認められなかったにも関わらず、腎機能障害が生じたことや、炎症性サイトカインの放出が1時間後と3時間後では有意な変化がなかったこと、3時間後に脂質過酸化が有意に上昇していたことなどから、ミオグロビンによる脂質過酸化反応は、それが要因となって腎機能障害を引き起こすというよりは、既に発生している腎機能障害の悪化を促す要因となっている可能性が示唆された。一般に横紋筋融解症発症時の様な酸化ストレスが高まっている場合、過酸化脂質の生成と消去のバランスが重要であり、過剰に生じた過酸化脂質は、多くの場合グルタチオンペルオキシダーゼやsuperoxide dismutase等で処理される。そして処理しきれない過酸化脂質は生体シグナルとして抗酸化防御系を促進するとともに、酸化ストレスを広範囲に伝播させる。恐らくglycerol投与1時間後の病態発症群では、この生成と消去のバランスが辛うじて保たれている可能性が考えられる。そこで来年度は、この酸化ストレスについて抗酸化剤の前投与による病態発症の抑制やそれに伴う腎機能障害の改善について検討を行うとともに、熱中症病態ラットモデルの作製し本年度で得られた研究結果が同様に認められるか検討を行う。
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