研究実績の概要 |
心筋症は心筋収縮に関与する心筋サルコメア・サルコレンマ構成要素の遺伝子異常が発症原因の一つとされているが, 未だ詳細な病因解明には至っていない. 本研究では生前心筋症と診断された法医剖検例及び心筋症の既往がなく剖検時, 心重量500g以上で心肥大または心拡張を認めた症例について原因遺伝子探索を行うことで詳細な病態解明を目指すとともに遺伝子解析による確定診断へと展開する研究基盤の確立を目的としている. 本年度は拡張型心筋症 (DCM)で多くの変異が検出されているサイファー遺伝子(LDB3)及びFHL2遺伝子(FHL2)の遺伝子変異解析を行った. LDB3変異解析では5ヶ所のミスセンス変異と1ヶ所のサイレント変異が検出された. そのうち肥大型心筋症(HCM)1例で検出されたp.D673Nは蛋白質機能予測プログラムであるPolyPhen-2及びSIFTにより蛋白質機能異常をきたす変異と判定された. 同変異はすでにDCMの原因遺伝子変異として報告されており, さらに心サルコメア構成蛋白質である心室型ミオシン必須軽鎖をコードするMYL3の変異解析でもHCMの原因遺伝子変異として報告されているp.A57Gが検出されている. 本例のようにHCM例でDCMとHCMの原因遺伝子変異を重複して有している例の報告は殆どないが, どちらか一方の原因遺伝子を複数有する場合, 心筋症病態が重篤化することが報告されている. よって本例はMYL3及びLDB3異常によりHCMの重篤化が促進した可能性が考えられた. FHL2変異解析では3ヶ所の変異が検出され, p.G48Sについては対照群でも検出されたが, DCM群との間に有意差を認めたため疾患との関連が示唆された. 今後さらに症例数を増やし詳細に検討するとともに引き続き他の遺伝子変異解析を行い, 疾患との関連を明らかにしていく予定である.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究計画では拡張型心筋症で多くの変異が検出され, 心サルコメア構成蛋白質であるタイチンの遺伝子発現を制御しているRNA Binding Motif Protein20遺伝子(RBM20)及びZ帯に分布し, DCMの新たな原因遺伝子として着目されている心臓特異的骨形成蛋白遺伝子 (BMP10)の遺伝子変異解析を行う. ミスセンス変異が検出された際にはin silicoスクリーニングおよび変異alleleの発現量解析を行い, 蛋白質への影響を分析する. さらに臨床データが得られている症例についてはその情報も合わせ遺伝子変異と疾患との関連を検討していく予定である.
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