心筋症(CM)の病態解明及び心肥大と遺伝子異常との関連について検討するため,生前CMと診断された法医剖検例及びCMの既往がなく剖検時,心重量500g以上で心肥大または心拡張を認めた症例についてその原因遺伝子探索を行った. 本年度は近年新たに拡張型心筋症(DCM)の原因遺伝子として発見された心臓特異的骨形成蛋白質10遺伝子(BMP10)及びRNA binding motif protein 20遺伝子(RBM20)の遺伝子変異解析を行った.BMP10については DCM例も含めて全例で蛋白質機能に異常をきたす変異は検出されなかった.一方,RBM20については,肥大型心筋症(HCM)1例で蛋白質機能予測プログラムによって機能異常をきたすと判定されたものの,疾患との関連が不明な変異として報告されているp.R1182Hが検出された.この例では,これまでの検討でミオシン結合蛋白C遺伝子にHCMの原因遺伝子変異として報告されているSer593fs:1も検出されている.よって本例はHCM及びDCMの原因遺伝子変異をそれぞれ有したことでCM病態を重篤化させた可能性が示唆された.また,心肥大1例でこれまで報告例のない変異であるp.G1217Rが検出された.RBM20の変異は,心筋の収縮・弛緩においてサルコメア全体のバランスを維持する蛋白質であるタイチンの選択的スプライシング異常を引き起こすことでDCMを発症すると言われているが,心肥大にも関与している可能性が示唆された. 本研究期間で解析したDCMの原因遺伝子のうち蛋白質機能に異常をきたす変異が検出された症例はサイファー遺伝子(LDB3)でHCM1例とRBM20でHCM及び心肥大各1例であった.本結果から重複した各CMの原因遺伝子異常によるCM病態の重篤化及びRBM20のHCM原因遺伝子としての可能性が明らかとなった.
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