本研究は、乱用薬物の依存性とヒト内在性レトロエレメントの関連性を明らかにすることである。本年度は、イミプラミンに着目し研究を行った。これまでにイミプラミンが内在性レトロエレメントのLong Interspersed Element-1(LINE-1以下L1)の転移能(retrotransposition以下RTP)を活発化させることを明らかにした。さらに、イミプラミンのL1-RTPは神経細胞特異的で、DNAの二重鎖切断(double strand break:DSB)には依存せずにL1-RTPは誘導することが示唆された。これまでのL1-RTPは、DSB依存的に誘導されることが通説であったため新規の知見といえる。さらに、L1-RTPをモニターする野生型のプラスミドとL1の逆転写酵素の機能を失くした変異型プラスミドを用意し、イミプラミンのL1-RTPの実験を行った。その結果、変異型では、L1-RTPは誘導されず、L1の逆転写酵素に依存した反応であることが確認された。 イミプラミンはMitogen-activated Protein Kinase(MAPK)をリン酸化することが示唆された。そこで、MAPKの阻害剤実験を行ったところ、イミプラミンのL1-RTPは抑制された。今後はMAPK下流の転写因子も含めて細胞内シグナルの全容を明らかにしたいと考えている。さらに、イミプラミンの標的受容体の1つであるNR2A受容体の阻害剤実験でもL1-RTPは抑制された。現在、NR2AのsiRNAを用いて実験をしている。 期間全体では、モルヒネとクエン酸フェンタニルのL1-RTPについて解析した。モルヒネとクエン酸フェンタニルも神経細胞でL1-RTPを誘導し、DSBに依存的にはL1-RTPを誘導しなかったが、Toll-like receptor 4の阻害剤でL1-RTPを抑制することが示唆された。
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