研究実績の概要 |
糖尿病は、特にその構成因子であるインスリン抵抗性は、アルツハイマー病(AD)発症の危険因子のひとつである。インスリン抵抗性がAD発症リスクを増大させる機序を明らかにすることは、ADに対する治療的介入法を創出するうえで非常に重要である。そこで本研究では、インスリン抵抗性を発症するADモデルマウスを作出し、その表現系を解析した。 まず、インスリン受容体のチロシンキナーゼ領域に機能欠損変異(P1195L)をノックイン法で導入し、インスリン抵抗性を発症するマウス(IR-KI)と、Aβを過剰産生する変異ヒトアミロイド前駆タンパク質のノックインマウス(APP-KI)を交配させることで、インスリン抵抗性ADモデルマウス(IR,APP-KI)を作製した。IR, APP-KIは、随時血糖は正常であるものの耐糖能異常を示した。IR, APP-KIに対し行動試験を実施した。高架式十字迷路試験では、IR, APP-KIはOpen arm滞在時間の延長が見られ、不安感受性が減少していることが明らかとなった。強制水泳試験では、無動時間の延長が見られ、抑うつ症状を示すことが明らかとなった。最終年度では、大規模にIR, APP-KIを作製し、これら行動試験の結果の再現性を確認し、新たに明暗箱試験を実施し、IR, APP-KIの明所滞在時間の延長が見られ、不安感受性の異常を確認した。 行動試験の結果より、インスリン抵抗性改善薬は、ADに対しても有効と考えられる。そこで、インスリン抵抗性改善薬のオメガ3脂肪酸を投与し、IR, APP-KIに対する行動改善効果について検証した。オメガ3脂肪酸の3ヶ月間の経口投与は、IR, APP-KIの不安感受性の異常を強く改善した。 以上のことから、インスリン抵抗性はAD病態に不安感受性異常ををもたらし、その異常はオメガ3脂肪酸により改善することが明らかとなった。
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