研究実績の概要 |
腹部大動脈瘤(AAA)は罹患率、致死率共に高い疾患で有り、病態理解には今なお不明な点が多い。ヒトのAAAの組織では、リンパ球や単球の浸潤が見られ、また抗体や補体の沈着が認められている。また、マウスでは、好中球の除去や補体の除去によって、AAA形成が抑制されることが報告されている(Eliason, Circulation, 2005)(Pagano, Circulation, 2010)。これらから、免疫機構がAAAの病態に関わることが示唆されてきた。加齢はAAAの危険因子であるが(Singh, Am. J. Epidemiol, 2001)、その機序については不明な点が多い。一方、ヒト、マウスの双方で加齢とともに自己抗体が増えることが知られているが(Nagele, PLoS ONE, 2013)(Hayashi, Clin. exp. Immunol., 1989)、その機能については不明である。本計画では、加齢にともない、変容した抗体がAAA発症に関わるとの仮説の元に行った。野生型マウスとしてとしてC57/BL6Jを用いた。Angiotensin II持続投与下において、高齢マウスでは若齢マウスに比べ、AAAを形成しやすいことを確認した。高齢、若齢マウス、それぞれの血清からIgG抗体を精製し、若齢マウスに対し、高齢、又は若齢マウスの抗体を投与後、AngiotensinIIの持続投与を行った。その結果、高齢マウス抗体投与群においてのみ、AAA形成が惹起された。また、高齢マウスのIgGを酵素的に断片化したF(ab)’2では、AAAを惹起しないこと、補体のC3を欠損したマウスにおいては、高齢マウス抗体はAAA形成を惹起しないことを示した。これらから、加齢により、抗体がAAA形成の惹起作用を持つこと、またその作用には補体の活性化を必要とすることが示唆された。
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