研究課題/領域番号 |
15K19303
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研究機関 | 旭川医科大学 |
研究代表者 |
高橋 賢治 旭川医科大学, 大学病院, その他 (00736332)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 膵癌 / Long non-coding RNA / Extracellular vesicle / EMT / microRNA |
研究実績の概要 |
長鎖の機能性RNA であるlong non-coding RNA (lncRNA)は、種々の疾患の病態成立に関わる事が明らかにされつつあるが、膵癌の発癌や進展と関連したlncRNA の報告は数少ない。一方で申請者らは肝癌においてlncRNAが細胞外小胞(Extracellular vesicle (EV)) を介して細胞間情報伝達される事を報告した。本研究の目的は膵癌浸潤、転移に重要なプロセスであるEpithelial Mesenchymal Transition (EMT)に寄与するlncRNA を同定し、そのEMT 制御機構とEV を介した情報伝達機構を解明する事である。前年度までにHULC, linc-RoR, linc-VLDLRの3種類のlncRNAが膵癌細胞とそれらから分泌されるEVに高発現し、EMT誘導サイトカインであるTGFbによって細胞内、EV内に発現が誘導される事を明らかにしていた。今年度はその中の1つであるHULCについて、膵癌細胞におけるEMTや浸潤、転移能に及ぼす機能とEVを介した情報伝達機構を解析するために以下の検討を行った。 1) 膵癌細胞におけるEMT関連マーカー(E-cadherin、N-cadherin、Vimentin、Snail)に与える影響の解析。 2) 膵癌細胞浸潤能、遊走能に与える影響の解析。 3) 膵癌細胞から抽出したEVによるHULCの細胞間伝達が 伝達先の細胞のEMT及び浸潤、転移能に与える影響の解析。 今回の検討結果は、膵癌のEMT におけるこれまで未知であった、lncRNA を介した新たなシグナル異常、エピジェネティックな遺伝子制御機構を提示するとともに、EV を介したlncRNA の情報伝達が、EMT シグナルを制御する事によって膵癌浸潤、転移のプロセスに与える影響の解明に寄与するものと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度はlncRNA HULCについて、膵癌細胞における機能とEVを介した情報伝達機構を解析し、以下の成果を得た。1) HULCはEMT関連転写因子Snailの発現を誘導し、上皮系マーカー(E-cadherin)の発現抑制と間葉系マーカー(N-cadherin, Vimentin)の発現上昇に寄与し、EMTを促進させる事を同定した。2) HULCは膵癌細胞の増殖能に加え、浸潤、遊走能を増強させる作用がある事を同定した。3) HULCは膵癌細胞から分泌されるEVによって細胞間伝達され、伝達先の細胞におけるEMTを促進し、浸潤、遊走能を増強する事を確認した。以上の結果からHULCがEVによる細胞間伝達を介し、膵癌細胞におけるEMT促進を経て浸潤、転移能を増強させるlncRNAである可能性が示唆された。更に、これまでに行ったマイクロアレイとバイオインフォマティクス解析の結果から、HULCをターゲットとし、HULCの機能抑制を介してEMTを抑制性に制御する候補miRとしてmiR-133bとmiR-622を同定しており、これらについては今後詳細な検討、解析を行う予定である。以上より、本研究は計画通り概ね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度の研究推進方策を以下の2点にまとめた。 1) HULCを標的とし、EMTを抑制性に制御するmicroRNAの解析 これまでに行ったマイクロアレイとバイオインフォマティクス解析の結果から、HULCの機能抑制を介してEMTを抑制する候補miRとしてmiR-133bとmiR-622を同定している。次年度は更に、miRに対するノックダウン法, 強制発現法を含めた解析を用いて、これらmiRのHULCを介したEMT制御機構について詳細に解析する。また、これらmiRが膵癌細胞の浸潤、遊走能に与える影響についても解析する。 2) 癌患者検体を用いたlncRNAの発現解析 膵癌患者と健常ボランティアより血清を採取しEVを抽出後、EVに含まれるHULCの発現をリアルタイムPCR法にて解析し、癌のStage、血液検査所見、転移の有無、予後、治療効果等と相関関係を解析し、HULCの膵癌バイオマーカー、治療標的としての可能性を検討する。この臨床研究は既に旭川医科大学の倫理委員会から承認を得ており、現在検体を収集しているところである。
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次年度使用額が生じた理由 |
一部の実験において他の研究資金を使用したことから、今年度の使用額が当初の見込みより減額となったため。
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次年度使用額の使用計画 |
LncRNAやmicroRNA の発現解析に必要な試薬、プラスミド作成、遺伝子導入実験に用いる試薬、リアルタイムPCR やウエスタンブロットなどに用いる一般的な分子生物学実験試薬、細胞培養試薬や培養器具を含めて消耗品の購入費として使用する。更にEVを細胞や患者検体から抽出し解析するために必要な試薬の購入費として使用する。また、本研究における実験の結果は国内外の学会で発表予定であり、旅費を計上予定である。
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