近年、長鎖の機能性RNAであるlong non-coding RNA(lncRNA)が、種々の疾患の病態成立に関わる事が明らかにされつつあるが、膵癌の発癌や進展と関連したlncRNAの報告は数少ない。一方、lncRNAのいくつかは細胞外小胞(Extracellular vesicle (EV)) を介して細胞間情報伝達される事が報告されている。 よって本研究では、膵癌浸潤、転移に重要なプロセスである上皮間葉形質転換(EMT)に寄与するlncRNAを同定し、その核酸本体としてのEMT制御機構とEVを介した情報伝達機構を解明する事を目的とした。更に患者血清を用いた解析により、血清EV中lncRNAの新規膵癌バイオマーカーとしての有用性を検証した。 培養細胞及び免疫不全マウス皮下移植腫瘍モデルを用いた検討から、lncRNAの1つであるHULCが、EMT促進サイトカインTGF-bにより膵癌細胞とそれらから分泌されるEV内に発現誘導され、EMT経路促進を介して膵癌細胞の浸潤、遊走能を増強する事を同定した。また、microRNAの1つであるmiR-133bは、HULCをターゲットとしその発現を抑制をする事で、EMTを抑制性に制御するmicroRNAである事を同定した。 更に、膵癌患者血清中EVにおけるHULCの発現は健常者、IPMN患者それぞれと比べて優位に上昇した。腫瘍マーカーとの比較において、ROC曲線におけるHULCのAUCはCEAと比べて優位に高値であり、CA19-9と比較しても遜色ないAUCが得られた。以上より、HULCは膵癌診断における新たなバイオマーカーとしての有用性が期待される結果となった。
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