我々の研究室では,麦芽乳酸菌から分泌されるポリリン酸が,酸化ストレスや炎症による腸管上皮障害を改善させることを突きとめた.その後の研究成果から,このポリリン酸が腸管上皮integrin β1に認識された後にcaveolin-1依存性エンドサイトーシスを介してヒト腸管上皮細胞に取り込まれ,作用を発揮していることを見出した.そこで,ポリリン酸の腸管上皮への作用機序について明らかにすることを目的として検討を行った. high-throughput sequencing解析にてポリリン酸投与で2倍以上発現変化があり,かつP値0.05未満であった154個のmRNAを抽出し,バリア機能増強作用に関連するtumor necrosis factor alpha-induced protein 3(TNFAIP3),thymosin beta 4(TMSβ4),dual specificity phosphatase 2(DUSP2)を候補分子として同定した.そのうち,細胞株へのポリリン酸投与によりmRNA,タンパク発現量ともに有意に発現が変化した分子はTNFAIP3のみであった.また,ポリリン酸によるTNFAIP-3の発現誘導はcaveolin-1発現抑制により減弱した.TNFAIP3はTNFα/NF-κBシグナルを強力に抑制すること,腸管バリア機能を増強することが知られている.免疫蛍光染色にてタイトジャンクション関連蛋白の発現を検討した結果,ポリリン酸投与によりclaudinおよびZO-1の発現が誘導されたが,その作用はTNFAIP3発現抑制により減弱した.以上より,ポリリン酸はTNFAIP3の発現誘導を介して腸炎改善や腸管バリア機能の回復などの有益な作用を発揮すると考えられた.
|