今年度は、樹立した6つの大腸腺種、大腸癌オルガノイド及び大腸癌培養細胞を用いたiPS化実験を検証していた。ところが2016年、55種類の様々な進行度の大腸癌からオルガノイドを樹立と、異種移植片への生着能を保持する事が佐藤らにより報告された(cell stem cell.2016)。オルガノイド内に多分化能や自己増殖能を有する幹細胞の存在する事が明らかとなり、iPS化による大腸癌幹細胞のみの維持培養維持は困難である事が予想された。そのため我々は新たに癌幹細胞のニッチ形成因子について注目した。佐藤らの報告により、大腸癌幹細胞の遺伝子変異によりニッチ要求性が変化する事が明らかとされてきたが、現在まで、APC遺伝子変異によるWNTシグナルの活性化や、RAS変異によるEGFシグナル活性化、それ以外のエピジェネティックな変化が報告されている。大腸癌はヘテロジェニックな細胞集団であり、癌の均一化に関与するには、細胞内の変化だけではなく細胞外へ何らかの情報伝達手段を保持していると考え新たにエクソソームに注目した。エクソソームは100nmの小胞顆粒で、内部には核酸(miRNA等)を含み細胞外に分泌され別の細胞に移動する事が可能で、受容体や酵素と全く異なった恒常性維持機構とされている。エクソソーム研究は殆どがcell lineを用いたものであったが、cell lineは既にニッチ非依存的増殖が可能な非常に特殊な細胞腫が選別されており、ニッチ要求性の高い腺腫や早期大腸癌の分子生物学的な検討は不可能であった。上記で作成したオルガノイドからエクソソームを分離した報告はまだなく、分離が成功すれば、ニッチ要求性とエクソソームの変化の関与が明らかとされる。上記オルガノイドかの上清を回収した所エクソソームは検出されたなかったが、マトリゲルを融解した後にエクソソームを抽出する事で、エクソソームが抽出可能であった。今後は抽出したエクソソームを精製し、microRNAの評価を行う予定である。
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